2012年09月10日
■TPP参加に立ち遅れてしまった日本
国内の政局でゴタゴタしている間に日本はTPP(環太平洋経済連携協定)への参加でまたも立ち遅れてしまった。
9月6日にウラジオストックで開いたTPP閣僚会合では、これまでの9か国(シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルー)に加え、メキシコとカナダも参加し、11か国が正式メンバーとなった(日経新聞2012年9月7日)。日本は、8~9日のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議でも参加表明ができなかった。
TPPに参加すれば日本の農業は壊滅する、労働保護規制も全廃される、医療保険も廃止される、消費者安全もおかしくなる、投資保護協定で日本の主権が侵されるなどという議論を巻き起こしている反対派を説得できないからだ。
何か新しいことをすれば、いつでも反対を唱える人はいる。日本のためになることなら、それを説得するために、自分の政治力を使うのが首相の仕事だ。しかし、首相は消費税増税のために政治力を使い切ってしまい、TPPに参加するために反対派を説得する力は残っていないようだ。
すると消費税増税とTPP参加とどちらに政治力を使うべきだったのだろうか。
役人も政治家も増税が好きである。税収が上がれば、ともかく予算を増やすことができる。予算を増やせば、自分の力を拡大することができるからである。何度も書いているように(本欄「社会保障論議6つの誤り(上)(下)」〈2012/6/8~9〉)、消費税をいくら上げても将来の社会保障は安心にならない。
現在の潤沢な高齢者福祉を、高齢者の全人口に対する比率がほぼ4割になる2040年以降にも維持するためには60%以上の消費税が必要になる。こんなことは不可能だから、高齢者への社会保障給付を減らすしかない。消費税増税の前に、まずこのことを明らかにして国民的議論を巻き起こすべきだった。
議論するだけなら、政治力を使う必要はない。高齢者への潤沢な社会保障給付制度を作ったのは自民党であるし(それを政権の初期にさらに潤沢なものにしたのは民主党の責任であるが)、高齢化は子供を生まなかった日本国民のせいである。少子化に手を打たなかった政府の責任かもしれないが、それは歴代自民党政府の責任であり、民主党政府には責任がない。
将来高齢化のピークでどれだけ予算が必要かの議論をしてから消費税を上げなければ、際限のない消費税増税が必要になって、今回の増税自体が意味のないものとなる。
■TPP、高齢者福祉についての国民的議論、消費税増税の順だった
一方、TPPは日本が世界の中で経済大国として生きていく覚悟を国民と世界に示すものだ。自由貿易や自由な資本移動のルールを無視したり、一方的に捻じ曲げたりすることを抑え、日本経済が世界の中で生きていく環境を造るものだ。TPPへの参加で労働保護規制や医療保険や消費者安全や投資協定で日本の主権が侵されるなどという議論は根拠がない。オバマ民主党政権は、労働保護や医療保険に熱心で、消費者安全も重視の立場だ。投資協定は日本の海外資産を守るものだ。
共和党政権になれば多少の巻き返しがあるだろうが、他国の労働保護や医療保険や消費者安全規制を変えられるはずがない。そもそも、ニュージーランド、オーストラリア、カナダなどはこれらの政策に熱心な国だ。
問題は農業だけである。農業の付加価値は5兆円でGDPの1%である。農業のうち、
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