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ユーロ危機は終らない

吉松崇

吉松崇 経済金融アナリスト

 9月は、ユーロ圏で、久々に明るいニュースが続いた。欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁は6日、南欧諸国の短期の国債(1年~3年物)を無制限で買い入れる決定を発表した。このECBの決定を受けて、スペイン国債の利回りは、短期だけでなく、長期の利回りも大きく低下した。例えば、10年物国債の利回りは、このECBの決定の前は7%近くであったが、決定後、5%台後半へと、1%以上低下している。

 更に、ドイツの憲法裁判所は12日、ドイツによる欧州財政協定の批准と欧州安定メカニズム(ESM)への拠出が合憲である、との判断を示した。ドイツでは、そもそもこの財政協定がドイツの主権を侵害しているのではないか、との論争があったのだが、この論争に決着をつけたものである。また、ユーロ圏を包摂する銀行監督構想にも、進展が見られるとの報道がある。

 これらの一連の動きは、これまで債務危機に陥った国への救済に厳しい条件を求めていたドイツが、その立場を大幅に譲歩したかのように見える。ドイツは何故、ここに来て譲歩したのだろうか? こうした動きは、ユーロ圏の金融市場の安定に資するのだろうか? 

南欧諸国の発言力が増すユーロ圏

 先ず、ECBの決定から見てゆこう。この決定は、ドイツの中央銀行、ブンデス・バンクの反対にもかかわらず、行われている。ECB政策理事会の17人のメンバーのうち、反対票を投じたのは、ブンデス・バンクのウェイドマン総裁一人であった。ドイツを代表するECBの理事は賛成票を投じている。恐らく、メルケル首相の暗黙の了承があったのであろう。ブンデス・バンクは、この決定の後で、「これはECBによる財政ファイナンスに等しい。多くの国の納税者に多大なリスクをもたらすだろう」との声明を出している。

 つまり、この決定は、「ECBはユーロ圏諸国の財政ファイナンスは行わない」というECB憲章に違反している、ということだ。もともと、ECB憲章のこの条項は、ドイツが、「中央銀行(ECB)が、ユーロ圏参加国の財政ファイナンスに使われてしまう」ことを極度に警戒して、ユーロ発足の条件として戦い取ったものである。

 何故、ドイツはここまで譲歩したのか。先ず言えることは、ドイツが、如何に中央銀行(ECB)による南欧国債の買い入れに反対であっても、ユーロという通貨を守るための代替案を持っているわけではない、ということだ。

 拙稿「ユーロを銀行危機から救うのは誰だ?」(6月15日)で述べた通り、TARGET2と呼ばれる、現在のユーロ圏の資金決済システムの下では、ユーロ圏の経常収支の不均衡と資金の偏在がもたらすリスクを否応無しに取らされているのは、ドイツを始めとする北の経常収支黒字国である。ユーロが崩壊したら(何れかの国がユーロから離脱したら)、このリスクが顕在化して、本当に困るのはドイツである。だから、ドイツとしては、ドラギ総裁の決定に対し、ECB憲章を盾に、強く反対することが出来なかったのではないか。

 このECBの決定からもう一つ言えるのは、 ・・・ログインして読む
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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『労働者の味方をやめた世界の左派政党』 (PHP新書、2019年)、『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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