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米国干ばつは警鐘~顕在化する構造的な食料問題

中口威

中口威 内外情勢アナリスト

米国干ばつと穀物価格急騰

 米国はじめ、世界的な干ばつの影響を受け、年央以降、穀物価格が急騰した。7月18日には、米国ビルサック農務長官が緊急記者会見を行い、米本土の6割が干ばつに見舞われているとして非常事態を宣言した。

 干ばつの影響で、6月半ばには本年の安値圏で推移していたシカゴ穀物市場の大豆、小麦、とうもろこしの先物価格は、6月15日から7月20日にかけて、それぞれブッシェルあたり13.42ドルから17.78ドルへ、6.26ドルから9.45ドルへ、5.09ドルから8.29ドルへと急騰した。そしてその後、とうもろこしは、8月10日に8.49ドル、大豆は、9月9日に17.94ドルをつけて、史上最高値を更新している。

 9月中旬になり、産地での降雨量が改善したことなどにより市場は若干調整し、10月5日現在、大豆は15ドル台、小麦は8ドル台、とうもろこしは7ドル台で推移している。しかしながら、21世紀初頭には標準の価格帯であった、大豆5ドル、小麦3ドル、とうもろこし2ドルの時代には、もう戻りそうにない。

逼迫するグローバルな食料需給

 米国の異常な干ばつを背景に急上昇した穀物価格だが、今回の干ばつは市場への警告と捉えるべきである。主要な穀物を取り巻く世界的な需給は、近年供給不足が顕著であり、この傾向は、今後中長期にわたり構造的に加速するものと思われる。その主な要因として次の2点が挙げられる。

 一点目は、2011年に70億人を超した人口である。国連の人口推計によれば、世界の人口は、2020年に77億人、2050年には93億人、そして2083年には100億人を超すとされている。地球はひとつ、農業の耕作地も限られており、この急増する人口を飢えさせることなく、食料を安定的に供給し続けるのは容易なことではない。

 二点目は、経済が急成長し、国民の生活が着実に豊かになりつつある新興国の食料需要である。なかでも一昨年GDPが世界第2位となり、一人当たりのGDPも5000ドルを超した中国の需要拡大は目覚しく、すでに穀物や食肉類の純輸入国に転換している。加えて人口が12億人、中国に次ぐ第2位で、近年8%台の経済成長が続くインドも、いずれ食料の大輸入国になる可能性が高い。さらに、今後堅実な経済成長や人口増が予想される、アセアンや中南米、ならびにアフリカ諸国などの食料需要も着実に増大するものと思われる。

 このような食料需給の構造的な逼迫要因に加えて、今回の価格上昇をさらに一段押し上げたのが、おりからの欧米諸国の財政金融危機に対応すべくFRBやECBが実施している膨大な資金供給である。この資金が、事業拡張や設備投資など実体経済に向かわず、グローバルな余剰資金となり、ファンドなどを通じて、国債や株式市場、原油や金、そして穀物などの商品市場に流入している。

食料需給緩和への処方箋

 今後中長期的に、食料需給が逼迫する可能性が高いことは既述のとおりだが、この状況を極力緩和してゆくためには、国際社会全体での、食料増産に向けたさまざまな取り組みが求められる。

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筆者

中口威

中口威(なかぐち・たけし) 内外情勢アナリスト

【退任】内外情勢アナリスト。1970年伊藤忠商事入社、鉄鋼原料部配属。資源開発大学校研修を経て、76~80年鉄鉱石事業会社出向(豪州駐在)。帰国後は資源開発業務を担当後、85~87年 日本商工会議所・東京商工会議所出向。帰社後は、海外企画統轄部などを経て、92年10月政治経済研究所に配属。以降経営情報室、産業調査室、グローバル・センサー編集長などを歴任。約20年間調査情報業務を担当し内外情勢分析業務に従事。2012年3月末伊藤忠商事を退社。

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