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「再処理」「もんじゅ」の継続に見る中国軍拡の影

木代泰之

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 政府は「2030年代に原発ゼロを目指す」という目標の閣議決定を見送った。大騒ぎした挙句の玉虫色の決着だが、世界の核専門家たちの関心は、原発から出る使用済み核燃料の再処理や、生産されるプルトニウムの管理、それを燃やす高速増殖炉「もんじゅ」の扱いがどうなるかにあった。それらは核拡散防止の点で非常にセンシティブな監視対象になっているからだ。

 政府は当初、原発ゼロを目指す一方、再処理は青森県に配慮して継続し、「もんじゅ」(福井県)は研究炉にした後に廃炉にするという方針だった。しかし、これでは政策の整合性がとれていない。

 原発を将来ゼロにするのであれば、「もんじゅ」だけでなく、使用済み核燃料の再処理も不要になるからだ。再処理を残したまま「もんじゅ」を廃炉にしたのでは、燃やす当てのないプルトニウムが国内に溜まり続け、世界に核拡散の疑念を生んでしまう。

 報道によると、「もんじゅ」の扱いについて福井県知事が厳しく抗議すると、継続する方針に変わったという。まさかである。実際は整合性のない日本の方針に米国が鋭く警告を発し、核燃料サイクル全体が(原発も含め)元通りに戻されつつあるというのが正確だ。

 Jパワー(電源開発)が1日、青森県でMOX燃料(プルトニウムとウランの混合酸化物燃料)専用の大間原発の建設を再開したのは、「プルトニウムを燃やす」路線の継続を対外的に示す意味にも読める。

 8月中旬に日本に向けて出されたアーミテージ報告書が米国の意図をよく示している。「中国の軍備拡張や海洋進出によってアジア太平洋の安定が脅かされている」という危機感のもと、国防専門家のアーミテージ氏ら知日派の有識者グループが公表した。

 日本に対して集団的自衛権の容認、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を推奨し、エネルギー安全保障では原発再稼働を評価し、原子力分野での協力継続を求めている。原発は単に日本の電力需給の問題ではなく、日米間の外交・軍事・経済・エネルギー政策と一体化した重要テーマという位置付けだ。

 伏線になっているのは、オバマ大統領が昨年11月に豪州議会で行った演説である。「米国はアジア太平洋国家である」と宣言し、中国の台頭を念頭にアジアでの軍事的プレゼンスを今後も維持して一歩も引かない姿勢を表明した。

 今年4月の日米首脳会談では、日米が原子力エネルギーの平和利用で協力することを約束。7月には関係省庁同士による「民生用原子力協力に関する日米二国間委員会」が開かれた。

 一連の動きから分かるように、野田政権の基本方針は、今後も核燃料サイクルの開発を続け、米国を中心とするエネルギー安全保障の枠組みの中で共に生きることにある。首相にとって「原発ゼロ」はもはやあり得ない選択肢なのだが、世論は「脱原発」が多いので、言辞を弄して乗り切りを図っている。

 中国が開放経済に踏み切った1970年代以降、欧米や日本は「中国が経済発展すれば、民主化して国際社会に溶け込むようになる」と期待し、低金利の対中借款などで支援した。

 しかし、中国は経済成長するにつれて国家資本主義を強め、

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