小此木潔(おこのぎ・きよし) ジャーナリスト、元上智大学教授
群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。経済部員、ニューヨーク支局員などを経て、論説委員、編集委員を務めた。2014~22年3月、上智大学教授(政策ジャーナリズム論)。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)など。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
IMF・世銀総会は、世界経済の回復のための協調と行動の必要を確認したが、それは深まる危機の象徴であるといえるだろう。この総会は、そういうかたちで危機の実像を映し出す鏡の役割を果たした。「協調行動なしには、いまの危機は収拾できない」「緊縮一本やりでは世界が壊れる」ということをこの鏡は私たちに語りかけたのだ。しかしそれは、とてもわかりにくい言葉と、雑音混じりの小さな声であった。
持続不能なのは単なる政府債務の膨張ではない。ECBやFRB、日銀といった中央銀行の奮闘で、かろうじて危機の世界恐慌への転落を防ぎ止めているありさまなのに(世界恐慌を阻止しているのは、平時では許し難い放漫に見える財政出動と、垂れ流しそのものである超金融緩和なのだが、その構図が多くの人々になかなか理解されていないことも一因となって)、緊縮財政の強硬論がいまだに幅をきかせている現状そのものが世界をますます「持続不能」に追い込んでいるのである。ひとことでいえば緊縮を急ぎすぎて世界経済は失速している。実態は発表以上に加速度的に悪化しつつある。これでは財政はさらに破綻への道を歩む。
だからこそ、IMFのラガルド専務理事が「財政再建には時間がかかる。ギリシャには期間を2年間延長してはどうか」と11日の記者会見で述べたり、ブランシャール調査局長がこれに先立つ会見で、「財政再建と成長のバランス」について配慮を求めたりしたのである。
つまり当面の問題は、緊縮イデオロギーで凝り固まった頑固派がいまだに幅をきかせていることだが、それが欧州と世界を共倒れにさせて恐慌のふちに追いやろうとしているという自覚など頑固派にはまるでないところに、危機の深刻さがある。もっといえば、そうした危機の構図を転換できないIMFが実情についての説明を怠り、メディアもまた十分には深刻さを伝え切れていないため、世界の人々とくに富裕層やそこから出てくる政治家たちは危機をなかなか実感できずにいる。世界は緊縮の罠にはまっているのだ。
GREXIT(ユーロからのギリシャ離脱)は時間の問題だ。それが起こるかどうか出はなく、いつ起こるかという問題でしかない……そういう声をドイツ人エコノミストから聞いた。「それだと危ないね。
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