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EUがノーベル平和賞? それはないで賞!?

浜矩子

浜矩子 同志社大学大学院教授(国際経済学)

 EUがノーベル平和賞を受賞した。「一体これは何で賞」。そう言いたくなった。そして、やがては、「どう考えてもそれは無いで賞」。この結論に達した。

 ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)が結成された時なら解る。ローマ条約締結時でも多いに解る。前者が1951年。この時、石炭と鉄鋼という基幹産業を独・仏・伊そしてベネルクス3国の共同管理下に置く体制が発足した。欧州統合に向けての初めの一歩が踏み出された時である。

 後者は1957年。EEC(欧州経済共同体)とEURATOM(欧州原子力共同体)が設立されて、統合構想のスコープが大きく広がった。このいずれのタイミングでも、戦後欧州の政治主導者たちへのノーベル平和賞の授与には強い妥当性があったと思う。あるいは独仏ニ国への授与でも良かったかもしれない。

 いずれにせよ、この二つの時点のどちらかであれば、欧州人たちの決断は間違いなく賞賛に値したと思う。

 二度と再び、欧州の地を戦禍にさらさない。欧州人同士の殺し合いを決して再発させない。その強い決意が、恩讐を超えた独仏枢軸の形成を可能にした。当時における大量破壊兵器の基本素材だった石炭と鉄鋼を、国境を越えた共同管理の対象とする仕組みの実現につながった。そして、ローマ条約の締結をもたらした。

 昨日の敵を今日の友として抱擁する。その勇気ある行動が、欧州戦の爪痕がまだまだ生々しい中で取られたのである。そのことに対して、平和への貢献を認知する栄誉の大賞が贈られる。そのような展開は、誰もが納得するものだったろう。

 だが、あの時から既に半世紀以上の歳月が経った今、この平和賞の授与はいかにも時代錯誤だ。いくら何でも無理がある。ユーロ圏の財政金融通貨危機は深まる一方だ。

 その解決に向けて、統合欧州らしい一致団結の足取りがどこにみられるか。求心力維持のために、耐え難きに耐える熱情がどこから伝わって来るか。同志的結束がどれほどみて取れるか。そのようなものは、どこにも見当たらない。誰もが、自分のことしか考えていない。小異を抑えて大同をつかみ取ろうとする気概は、どこに行ったのか。

 どうひいき目にみても、

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筆者

浜矩子

浜矩子(はま・のりこ) 同志社大学大学院教授(国際経済学)

同志社大学大学院ビジネス研究科教授。エコノミスト。専門は国際経済学。1952年8月3日東京都生まれ。1975年一橋大学卒業、三菱総合研究所入社。90年より98年まで同社初代ロンドン駐在員事務所長。帰国後、同社経済調査部長、政策経済研究センター主席研究員を経て2002年10月より現職。「グローバル恐慌~金融暴走時代の果てに~」(岩波新書、2009年)、「ユーロが世界経済を消滅させる日」(フォレスト出版、2010年)など、著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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