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農村や農家の人口が減るのは悪いことなのか?

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 伊藤元重・東大経済学部教授が、「農村部から人口が流出することが、農業を活性化する」という趣旨の論文を書いたことが、与野党の農林族議員から反発を受けていると、JA農協の機関紙である日本農業新聞が報じている(10月18日)。

 伊藤教授の論文の要旨を簡単にまとめると、(1)地域からコスト面で競争できなくなった工場が退出すると、兼業先がなくなった兼業農家は減少する、(2)兼業農家が農業をやめるので、農地は専業農家に集まり、規模が拡大して、農業が活性化する、というものである。

 伊藤教授が、「TPP交渉への早期参加を求める国民会議」代表世話人であることも、農林族議員の反感を買ったようだ。それでなくても、農村から人がいなくなり、国会での議席が農村部からなくなることは、農林族議員の死活問題である。「選挙で落ちればタダの人」どころか、選挙の前提となる議席すら失うことになるからである。

 JA農協にとっても、深刻である。農家戸数が減少することは、農協の組織基盤を揺るがすからである。

 農協は農業者を正組合員とする職能組合である。しかし、農家ではなく地域の住民であれば誰でも組合員となれ、意思決定には参加できないが組合の事業を利用できる「准組合員」がいる。他の協同組合にはない農協独自の制度である。准組合員数は年々拡大して、2010年6月では組合員957万人中、正組合員477万人に対して准組合員は480万人と、とうとう正准が逆転した。

 正組合員のかなりも、実体は脱農化して土地持ち非農家となっている。1960年から農協の正組合員数は約600万から約500万へと2割減少しただけである。しかし、この間農業就業人口は1,454万人から251万人(2012年)まで8割も減少、農家戸数は606万戸から253万戸へと6割も減少している。

 1960年当時農協の正組合員と農家戸数が一致していたことからすれば、正組合員のうち少なくとも100万から200万人程度は農村にはいるものの、農業を営んでいるとはいえない人たちだろう。彼らは農協法の農民であるという正組合員要件を満たしていない可能性が高いが、これらの人も農村から出て行ってしまえば、准組合員でもなくなってしまう。日本農業新聞が伊藤教授の論文を取り上げたのは、このような背景があるのではないだろうか。

 これまで高米価政策によってコメの兼業農家が滞留したことは、

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