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貿易収支の長期トレンドは何を示唆するのか?

吉松崇 経済金融アナリスト

 財務省が10月22日に発表した本年度上半期(4月~9月)の貿易収支は、3兆2,000億円の赤字となった。EUの景気低迷で輸出が減速したのに加え、原発の操業停止を受けて、化石燃料の輸入が急増していることが、主な要因である。

 日本の貿易収支は、東日本大震災以降、赤字基調となり、しかも、この上半期は、前年同期比で赤字額がほぼ倍増している。これを見て、「なんとかしないと、大変なことになる」という悲観論も多い。

 しかし、日本は世界最大の対外純債権国である。大きな所得収支(対外債権・債務に伴う、金利や配当の受払いの収支)の黒字を計上しており(2011年で約14兆円の黒字)、この額は貿易収支の赤字額を大きく超えている。

 月間の貿易収支が平均で、約5,000億円の赤字だとしても、所得収支は月平均で1兆円を超える黒字であり、貿易収支に所得収支やサービス収支を加えた経常収支は依然として黒字を維持している。貿易収支が赤字で経常収支が黒字である、というのは、成熟した先進国に見られる通常のパターンである。

 そうは言っても、貿易赤字がどんどん増え続けると、「経常収支も赤字になるのではないか?」と心配になる人もいるだろう。エコノミストの中にも、「2015年ごろには、日本の経常収支が赤字に転落する」と悲観的な予想を立てている人もいる。その根拠は、日本の交易条件が過去10年以上に亘り悪化を続けている、という事実である。

日本の交易条件は悪化トレンドにある

 「交易条件」とは、「輸出品の1単位で、輸入品が何単位買えるか?」、その比率のことである。

 例えば、日本が自動車だけを輸出して、原油だけを輸入している、としよう。自動車1台の輸出代金で20,000ドルを受け取り、この時、原油が1バーレル当り100ドルだとすると、1台の自動車輸出で、原油が200バーレル買える。この「1台当り200バーレル」というのが、交易条件である。

 この例で、いま仮に、原油の値段が高騰して、1バーレル当り200ドルになると、この比率が「1台当り100バーレル」になるので、日本の交易条件は悪化する。同様に、自動車の輸出価格が低下して1台15,000ドルになると、原油の価格が変わらなくても、「1台あたり150バーレル」だから、この場合も日本の交易条件が悪化する。

 日本の交易条件が過去10年以上に亘って悪化を続けているのは、上に例示したような現象が現実に起っているからである。その理由は、中国やインドの経済成長である。

 中国やインドのような大国で経済成長率が高まると、

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『労働者の味方をやめた世界の左派政党』 (PHP新書、2019年)、『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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