城繁幸
2012年11月06日
厚労省が先日、業種別の新卒3年内離職率なるものを公表した。以前から「大卒新人は3年で3割が辞める」というのは有名な話だったが、具体的に業界ごとの数値が公開されるのは初だ。その内容はというと、製造業や電力・ガスといったインフラ系が低く、外食、小売、医療介護といったサービス業が総じて高いというものだった。
筆者としては、事前の予想通りの結果だったので特に驚きはないが、世間的には外食の48%という数字がかなりの衝撃だったらしい。メディアの取材も何件か受けたが、みなその点を真っ先に質問してきた。いわく、「なぜ外食ってそんなに新人が辞めるんですか?」
ここで、賃金制度の基本についておさらいしておこう。実は“終身雇用”という名の超長期契約は存在しない。会社からはクビには出来ないが、雇われる側はいつでも出て行って構わない。にもかかわらず多くの正社員が辞めずに結果的に終身雇用が成立するのは、賃金が初任給からほぼ一貫して上がり続ける年功序列賃金のおかげである。要するに「長く勤めれば勤めるほどおトクである」と労働者がわかっているから、辞めないわけだ。この仕組みは高度成長期に成立したが、特に従業員の長期雇用を重視した製造業とは相性が良かった。
とはいえ、すべての企業が長期勤続=メリットと考えているわけではない。世の中には、勤続年数と生産性が必ずしも比例しない仕事の方が多いのだ。そういう会社は賃金の上昇カーブを抑えたフラットな賃金制度を構築している。当然、そういった会社では(長期間勤めるメリットなどないから)従業員は流動化している。
筆者はそれをまったく悪いことだとは思わない。企業が仕事に対して必要な対価だけを払うのも、労働者が自らの意志で転職するのも、ごく自然なことだ。むしろ、社会経験の乏しい学生がなりゆきで入った会社に生涯縛り付けられる社会の方が異常だと考えている。
そもそも、離職率を問題視するなら、30代で早期退職を進めるリクルート社や、20代で半数以上が離職する外資系の金融やコンサルはどうなのか。こういった企業をスルーしてことさら外食だけ問題視する空気に、筆者は根強い差別意識を感じてしまう。
恐らく多くの人は、短期で離職することで人材価値が高まらない、つまり使い捨てされているのではないかと危惧しているのだろう。だが本来、人も会社もどちらも使い捨てされるべきものであり、
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