メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

安倍バッシングは見当違いだ!―総選挙はデフレ脱却のまたとないチャンスである―

吉松崇 経済金融アナリスト

 自民党安倍総裁の金融政策を巡る発言に対して、マス・メディアが批判を強めている。「建設国債を発行して、全部日銀に買ってもらう」、或いは「2~3%のインフレ目標を設けて、それが達成されるまでは無制限に金融緩和を行う」という発言は、政治家の発言としては行き過ぎだ、という訳だ。しかし、マーケットは、安倍氏の発言を好感して、為替は円安に振れているし、株式市場は大きく上昇している。

 日本経済新聞は11月21日付の社説で、「日銀の独立を犯すのは政治の行き過ぎだ」と題し、「安倍氏の発言は一線を越えていると言わざるを得ない。政治が日銀の独立性を犯し、財政赤字の尻拭いまで強要するようなことがあってはならない」と述べ、また、インフレ目標の達成まで無制限に金融緩和を行う、という安倍氏の発言に対し、「日銀に委ねるべき手法にまで注文をつけるのがいいとは思わない」と批判している。英ファイナンシャル・タイムズも、11月19日付の社説で、「政治家が、中央銀行が政治から独立し過ぎていると批判するのは、如何なものか?」と評している。(”Tokyo manoeuvres” Editorial, Financial Times, November 19, 2012)

http://www.ft.com/intl/cms/s/0/dab82c32-3252-11e2-b891-00144feabdc0.html#axzz2CiT2ONDq

 このようなメディアの安倍批判を、民主党が利用しないわけがない。野田首相や前原民主党政調会長が、「安倍氏の発言は、中央銀行の独立性に介入するものであり、非常識」と批判している。

焦点は日銀のパフォーマンスの評価である

 安倍氏の「建設国債を全部日銀に買ってもらう」という発言は、確かに荒っぽいが、メディアや民主党の安倍批判も、見当違いである。

 安倍氏は野党の党首である。現在、日本政府の高官ではない。したがって、安倍氏の「インフレ目標を達成するまで、無制限に金融緩和を行う」という発言をもって、日銀の独立性への介入だというのは当らないだろう。彼の考える「望ましい金融政策」について語ったに過ぎない。現在の日銀は、自らが設定した1%というインフレ率のメドすら、暫くは達成できない、といっているのだから、安倍氏の発言は、「日銀の金融政策のパフォーマンスは不合格である」と述べたものだと解釈すべきだ。アメリカ大統領選の共和党候補、ミット・ロムニー氏が、バーナンキFRB議長を非難したのと(非難の対象である金融政策の方向性は真逆だが)同じである。選挙戦で、相手の政策をコキ下ろすのは、当然の行為だ。

 自民党の選挙公約には、(1)物価目標を政府・日銀のアコードで決める、(2)日銀法改正を視野に入れる、という項目が入っている。これは、自民党が「現在の政府と日銀の関係では、政策運営が上手く行かない」と考えている、ということだ。民主党のマニュフェストには、これまでの報道を見る限り、金融政策に関する項目はなさそうなので、今のままで良いと考えているのだろう。したがって、これは明確な選挙の争点である。

今が「政策レジーム」転換のチャンスだ

 世界的に有名な投資ストラテジストで、ゴールドマン・サックス投資顧問のジム・オニール会長は、11月16日付けの投資家向けニュース・レターに、”We want Abe”というタイトルを付けて、日本に関し「過大評価された通貨と、壊滅的な状況にある輸出産業、経常収支の悪化を前にしても、自ら設定したインフレ・ターゲットに対してすら本気で取り組まない日銀に対して、次期首相の最有力候補である安倍氏が、無理やりにでも3%のインフレ・ターゲットを達成させる、という。これこそ、多くの人々が、1990年代から、日本が採るべき政策だとアドバイスしてきたものだ。1985年のプラザ合意以来、初めて、本格的な円安トレンドが始まろうとしている」と述べている。

(”We want Abe” Viewpoints from Chairman Jim O’Neill, Goldman Sachs Asset Management, November 16, 2012)

http://www.goldmansachs.com/gsam/advisors/education/viewpoints_from_chairman/viewpoints-pdfs/Q4_2012/20121116_weekly_update.pdf

 メディアがどう書こうが、私は、このオニール氏の見解が、世界中の市場参加者の、日本経済と日銀に対する標準的な見方だと思う。

・・・ログインして読む
(残り:約673文字/本文:約2655文字)