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自民党による農政復古

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 民主党から自民党へと政権が交代するのが確実な情勢となっている。我が国がTPPに参加できないでいるのは、農業界の反対である。その根幹には、高い価格で農業を保護しようとする農政とそれを推進する農協がある。その農政は政権交代でどのように変わるのだろうか。

 その検討に入る前に、この10年間の農政の動きを見よう。

 2003年8月アメリカとEU は、WTO交渉で100%以上の農産物関税は認めないことを合意した。コメの778%の関税は維持できなくなるという危機感を持った農水省は、同月末、唐突に「諸外国の直接支払いも視野に入れて」農政の基本計画を見直すという農林水産大臣談話を出した。関税で保護できない以上、EUのように直接支払いを導入しない限り農業は壊滅すると危惧したからである。

 しかし、その後、一定の農産物は上限関税率や関税の大幅引下げの例外にできるかもしれないという期待が生じたため、価格引下げのための直接支払いは見送られた。結局、農家保証価格と市場価格の差を補填しているWTOでは削減対象の補助金の7割を削減しなくてよい補助金に変更するだけになった。

 それでも、自民党は、民主党の戸別所得補償案に対抗して、対象農家を4ヘクタール以上に限定した。しかし、農業界から農家の選別政策であるという批判を受けた自民党は、2007年の参議院選挙で敗北した。このため、自民党は対象農家について市町村長の特例を認め、「対象者を絞る」政策から後退していった。

 農村部で自民党を追い込み、民主党政権の実現に貢献したのは、戸別所得補償政策である。当初は減反を廃止して価格を下げ、専業農家に限定して直接支払いを行うという構造改革的な内容だったが、2004年の参議院選挙を前に対象農家を全ての農家とするというバラマキ政策に転換した。

 さらに、民主党は、この戸別所得補償で2007年の参議院選挙を大勝したのち、政権交代が現実的となり、財源を心配せざるを得なくなってきた2009年の総選挙前には、減反廃止という要素を削除してしまった。戸別所得補償は一定のコストと市場価格との差を補てんするものだが、減反をやめて価格を下げると、財政負担が拡大するからである。

 それどころか、減反政策が緩んで、価格低下による財政負担増加を恐れた民主党は、減反に参加する農家だけに戸別所得補償を交付することとした。これまで、減反に参加するためのアメとして農家に2000億円の減反補助金を出してきたが、これに4000億円の戸別所得補償を追加し、減反を強化したのである。

 しかし、民主党は、米価が下がっても、市場からコメを買い入れて、

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