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成長戦略には、新産業の羅列より人材育成の視点を

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 安倍内閣がスタートし、金融緩和と財政拡大による「経済再生」が動き出した。これから起きる物価上昇に見合うだけの所得の拡大、賃金上昇を実現するには、産業の成長が不可欠だというので、自民党政権は6月ごろまでに新成長戦略をまとめるという。

 成長戦略は、小泉政権以降、首相が交代するたびに作られてきた。最近では2012年3月、民主党政権のもとで「新産業・新市場の創出に向けて」が発表されている。

 そこでは、これからの産業を「課題解決型産業(ヘルスケア、新エネルギー)」、「クリエイティブ産業(クールジャパン、観光)」、「先端産業(宇宙、電池、部品素材)」に分類し、企業と国が一体で推進するとしている。それ以前の成長戦略もおおむね「環境」「農業」「医療」「福祉」などの分野を取り上げている。

 これらを読んで痛感するのは、有望そうな産業名や新技術が同工異曲のように羅列されていて、21世紀のイノベーションを起こすのに必要なインフラ整備や改革の方向性、とくに教育制度、人材育成、ベンチャー起業家支援、IT戦略、知財戦略、税制など、社会を土台から改革する総合的な政策が不十分なことだ。

 成長戦略は経産省などが産業界や研究者から意見を聞いてまとめる。次年度の予算獲得に向けたアピールが官僚の念頭にあるために、どの報告書も現時点をベースにした産業育成策になりがちだ。他省庁の領域への切り込みは鈍く、未来にタネをまく社会構造変革の発想が出てきにくい。

 6月に出る成長戦略は、少子高齢化が進むという時期的にも、中国やアジアとの関係という地政学的にも、この国のかたちを定める上でラストチャンスになる可能性がある。にわかな円安に安堵してグローバル化の流れを緩めることなく、安易な公共事業にも流れず、未来社会への布石をきちんと打ってほしい。

 インフラの中でも人材育成や教育は、言うまでもなく未来への投資である。世界中でウォー・フォー・タレント(人材獲得戦争)が起きている。シンガポール、中国、EU、米国など科学技術に力を入れる国はどこも人材獲得と教育・育成に懸命なのに、日本の成長戦略にはその意識が薄い。

 海外への留学生が減っていると言われるが、問題はそれに留まらない。東京のある国立大学は博士課程の留学生枠を持っていて、毎年米国などへ多数送り出しているが、実際に留学するのは日本人学生ではなく、アジアなどの外国人留学生が大半を占める。

 日本の学生は留学を希望せず、

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