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[1]高橋洋一嘉悦大教授 金融緩和でデフレ脱却する/やっと日銀がインフレ目標を導入/でも実態は実にシャビー

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

 民主党から政権を奪取した自民党の安倍政権は、大胆な金融緩和、財政出動、成長戦略の「3本の矢」によって、日本経済を再生すると掲げている。安倍晋三首相は昨年暮れの選挙戦中から日本銀行の金融緩和が必要という姿勢を強く打ち出し、追い込まれた日銀は1月22日の政策決定会合でついに屈服し、これまで抵抗し続けてきたインフレ目標の導入を決めた。

 学者やエコノミストたちの間で甲論乙駁する安倍首相の経済政策「アベノミクス」。はたしてその処方箋に薬効があるのか、それとも重い副作用や後遺症をもたらすのか――。シリーズ「アベノミクスを聞く」、第1回は、安倍首相の経済政策のブレーンとしても著名な嘉悦大の高橋洋一教授に登場を願った。(インタビューは1月23日)

 

 

 

――日本銀行が昨日22日の政策決定会合で2%の「インフレ目標」を導入しましたね。

拡大インタビューに答える高橋洋一氏。「金融政策でデフレ脱却ができるというのは、世界では普通の考え方」という

 これまで日銀はずっとインフレ目標には反対で、それからみれば今回は遅まきながらようやく世界の標準に追いつき、そこは評価できます。でも、こんなのは主要先進国では1990年代初頭からやっていて、お隣の韓国でも98年ごろから導入しているんですよ。

 

 日銀はずっと渋ってきて、やっとそれらしきことを言ったのが、2006年3月の0~2%の物価安定の「理解」という言葉で、次が2012年2月の0~2%の物価安定の「目途」。今回は2%の物価安定の「目標」となった。英語では”understanding”だったのが、”goal”になって、今回やっと”target”になりました。

 

 金融政策でデフレ脱却できるというのは、世界では普通の考え方ですよ。世界ではどこの国も中央銀行の役割は、物価と失業に責任をもつ、ということなんです。デフレの定義は持続的な物価の下落のことを言い、物価を上昇させることができるのは日銀だけなんです。

 

 ところが、それを否定するのが日銀です。なぜか? それは日銀がただの官僚組織だから「責任をとりたくない」、それに尽きると思います。これが我が国特有の「日銀理論」なんです。すごく不思議な理論と思います。

 

 はっきり言って日銀は「我々は何もできない」という「言い訳」だけずっと言ってきました。「それはできない」「あれもできない」「これもできない」……と。「じゃあは日銀は何をするのですか?」と聞くと、「何もできません」と平気で答えるんです。

 

世界の中央銀行は、物価と失業をつかさどっているのが役目なのに、それを自ら全否定するんです。

 

 ――物価はわかりますが、失業対策というのは、どういうことですか?

 

 そんなのは経済学の常識です。「フィリップス曲線」と言って、インフレ率が高いときは失業率が低くなり、逆にインフレ率が低いときは失業率が高くなるという相関関係があるのです。中央銀行のツールを使えば物価安定と雇用確保ができるのです。これ、世界の常識。2、3%のインフレは失業率を低くするために望ましいというのが世界のコンセンサスです。

 

 したがって欧州では伝統的に雇用政策重視の左派政党が、金融政策を重視する傾向にあるのです。それが明確になってきたのは90年代のことで、英国や北欧諸国が採用しました。象徴的な事例がスウェーデンです。スウェーデンはインフレ目標導入の理屈に雇用を拡大することを使っている。

 

 私は「なんで連合が支持母体の民主党がやらないのかな」と思っていたくらいです。民主党の勉強会に呼ばれたときに同席した連合の古賀伸明会長に「金融政策は欧州では伝統的に左派政党の政策ですよ」「雇用の確保は米FRBの法律にもきちんと書かれていますよ」と申し上げたところ、古賀会長は身を乗り出して聞き、講演で「日銀法の改正」にまで言及するようになったのですが、どこかからか巻き返しが入ったのか、次第にトーンダウンしてしまいました。本来は労働者の代表者が言うべきことだと思うのですがね。

 

――高橋さんの主張は、日本の主流の経済メディアでは「イロモノ視」されていて、まともに取り上げられていないと思います。今回、WEBRONZAの編集長と企画を相談した際にも、やはりそういう見方が示されました。

 

 それはね、日本の経済ジャーナリストの取材源が日銀や役所に偏りすぎているだけなんです。私はFRBのバーナンキ議長やイングランド銀行のキング総裁と考え方は同じですよ。こっちが世界標準です。私も取材に来る記者に「クルーグマンとかアダム・ポーゼン(米ピーターソン国際経済研究所長)とか海外の普通の学者に聞いてみればいいのに」と言っているんですが、全然そういう取材をしないんだ。朝日新聞もそうですが、ソースはいつも役所や日銀で、相手の言っていることをそのまま代弁しているだけなんです。ですからマスコミもそうですが、学者も含めて、みんな日銀理論に染まっている。「何もできまません」という日銀理論は、あまりにも世界標準からかけ離れているんですよ。

 

 そもそも、この報道(朝日新聞1月22日付夕刊一面トップの「日銀、無期限に緩和」)、正しくないよ。これは要するに記者の人がわかっていないことをさらけ出しているんです。

 

 

 

――どういうことですか?

 

 日銀は確かにデフレ脱却のために2%のインフレ目標を導入する共同声明をしましたよね。声明でインフレ目標を決めたのは、確かに記事にあるようにその通りで、それは遅ればせながらよかったと思う。

 

 問題は、この「無期限に緩和」という表現ですが、共同声明とは別に日銀の政策決定会合の付属文書があって、それを読むと、無期限に緩和とはまったく正反対なシャビーな内容だとわかります。それによれば、日銀が緩和のために資産買い入れをする「基金」の枠が、2013年には36兆円ほど増加するのですが、2014年は10兆円程度なんです。しかも2013年の36兆円は以前からきまっていたことなんです。ですから今回は2014年の10兆円だけ。規模も小さくなっています。

 

 この規模の評価が問題です。「無期限の緩和」という書き方はとてもミスリーディングですよ。日銀は2%達成の目標年次を「できるだけ早期」としか言っていませんが、これを世界標準並みに2年間でやると解釈すると、2年でインフレ目標2%に必要な緩和資金の総量が逆算で弾きだされるんです。私がちなみに逆算すると60兆~80兆円です。

 

――えっ? では日銀は渋っているんですか?

 

 そうですよ。つまり日銀はやる気がないんですよ。日銀の白川方明総裁ら現執行部は2か月前まではインフレ目標導入に猛反対していて、自民党の圧勝でにわかに変わったというのは、実に日本的なサラリーマンな対応なんですが、もともとやりたくなかったことだから渋ったという……。

 

 

 ――しかし無尽蔵に緩和してハイパーインフレになりませんか。

 

 なるわけないです。そもそもデフレになる国自体が非常に少ないんです。インフレ目標があったので、逆にデフレにならずに救われたというのがニュージーランド、カナダ、スエーデン。1990年代にはそういう事例があります。

 

 だいたい、2%程度のインフレ目標がどうしてハイパーインフレになるんですか? 大鹿さんの質問は、子供みたいな質問ですよ。もし4%になったらひき締めればいいじゃないですか。いままでインフレ目標を導入した国で、ハイパーインフレになった国はないですよ。

 

 一般的な学者の間でのハイパーインフレの定義っておわかりかな? 月率50%以上で、年率で1万3000%、130倍になるということですよ。

 

 ――そうなんですか? 逆にリーマンショック以降の経済危機で日本は緩和の速度が遅く、量が少なかったくらいですものね。緩和した欧米では……。

 

 圧倒的に緩和した欧米ではハイパーインフレ起きていないですよ。

 

 起きたのは日本の為替が、独歩高の円高になったということですよ。為替は通貨の相対的な供給量によってほとんど決まるので、円が少ないので円高になるのは決まっています。これは経済原理そのものです。

 

 だからパナソニックやシャープが赤字になってしまうんです。エレクトロニクス業界全体をみると、平均的には1ドル80円よりも円高になると、業界平均値が損益分岐点を下回って赤字になります。そうなると、平均以下の会社はつぶれるか、海外に拠点を移して国内雇用が失われて失業率が高まるんです。

 

――じゃあシャープの苦境はサムスンのせいじゃなくて、日銀のせい? 日銀不況ということですか?

 

 そうですね。雇用と物価は日銀の責任です。

 

 お金を出し渋って円高になって、みんなが困っているというのが、いま起きていることの基本ですよ。エレクトロニクス産業は、為替と売り上げの相関関係がきわめて高いんです。売り上げ増減の8、9割は為替で説明できます。

 

 最終製品でサムスンとの間の技術の差は明確にはわかりにくいですが、価格の差は非常にわかりやすい。だったら海外の消費者は安いサムスン製を買ってしまいますよ。

 

――となると3月の日銀総裁人事が焦点になりますね。高橋さんが候補になっているという報道もありました。安倍首相と1月19日夜に会食されたそうですね。

 

 安倍さんと塩崎恭久政調会長代理、みんなの党の渡辺喜美代表らとホテルで会食しましたが、私は単なる「いじられ役」ですよ。渡辺さんが「いま日銀総裁候補と言われている財務省OBの人は日銀総裁になる適格条件を満たしていませんが、同じ財務省出身者でも高橋洋一さんは条件を満たしていますね」という感じで言っただけです。一種の笑いをとるためのジョークで言われただけなんです。それなのにマスコミの若い記者はジョークもわからないで聞いてくるんですよ。

 

 ――日銀総裁はどういう人がいいでしょうか?

 

 2%のインフレ目標といわれて逆算して何十兆円必要ということがすぐでるような人じゃないとだめですね。武藤さん(敏郎元財務事務次官)のような財務省OBでも即答できればいいでしょう。

 

 学者でマネジメントできる人となると、竹中さん(平蔵慶応大教授)はいいんじゃないですかね。

 

 ――ほかの2本の柱はいかがお考えですか?

 

 財政出動は、B/C(費用便益比)を満たしていればいいですが、それを無視してでもやろうというのは危険ですね。私は既存施設の更新や安全対策の投資は意味があると思いますが、それ以外についてはちょっと……。ですから留保しています。

 

 成長戦略は、世界的にはない政策で、普通の先進国でやると利益誘導と思われてしまう類です。政府が成長する産業を見つけることはできないでしょう。経済産業省がそういうのが好き、としか言いようがありませんね。

 

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たかはし・よういち)1955年、東京・板橋区生まれ。小石川高校卒。東大理学部数学科学と同経済学部経済学科を卒業。博士(政策研究)。80年、大蔵省入省。理財局資金企画室長、プリンストン大客員研究員、内閣参事官などを歴任。小泉・安倍政権において郵政改革や道路公団改革、公務員制度改革などに携わる。2008年退官。著書『さらば財務省!』で山本七平賞を受賞。ほかに『日本は財政危機ではない!』『恐慌は日本の大チャンス』など。

 

 


筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』がある。近著に『東芝の悲劇』。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

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