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中央銀行は誰のものか?―「アベノミクス」が欧米の経済論壇にもたらしたインパクト

吉松崇 経済金融アナリスト

 「アベノミクス」に対する欧米メディアの反応を端的に整理すれば、エコノミストが概ね好意的であり、中央銀行家が不満を述べる、こういう構図だといえよう。

 「アベノミクス」とは、要するに、大胆な金融緩和政策と拡張的な財政政策の組み合わせ(ポリシー・ミックス)である。このうち、金融政策に関しては、日本がデフレ状態にあるので、ケインジアンであれマネタリストであれ、殆どのエコノミストの間で、政策効果についてのコンセンサスがある。よほど特殊な経済モデルに依拠しない限り、「金融緩和が効果を生まない」という人はいない。日本には、金融緩和無効論者が多数存在するが、欧米のエコノミストの間では、金融政策に関する見解はほぼ一致しているといえよう。(

拡張財政をどう考えるか?

 一方、財政政策となると、既に日本は膨大な政府債務を抱えており、人により見方が分かれる。

 前イングランド銀行の政策委員で、日本経済への深い造詣で知られるアダム・ポーゼン氏は、「日本は景気刺激策を見直すべきだ」と題した、1月15日付のファイナンシャル・タイムズへの寄稿で、

(1) 日本経済の最も深刻な問題は、デフレと円高であり、これを解決するための金融緩和が最優先である。

(2) 日本の政府債務は、過去20年でGDPの60%から220%に増えた。ネットの債務は130%だと言っても、それでも極めて高い数字だ。

(3) 私は、90年代の不況の時には、日本の拡張的な財政政策を支持したが、今となっては、支持できない。国債が市場の信認を失い、金利が急騰するリスクを排除できない。

と述べている。

(Japan should rethink its stimulus by Adam Posen, Financial Times, January 15, 2013)

 これに対し、アメリカ・リベラル派の代表的論客、(そして、恐らく世界で最も有名なエコノミスト)、ポール・クルッグマン氏は、「アベノミックス」に対して、はるかに好意的である。彼の、1月11日付のブログを要約すれば、

(1) 世界中の国が、古典的な「均衡財政」の呪縛に捕われ、且つ、市場の予想を大きく変化させるような大胆な金融緩和も行わず、自縄自縛で不況に沈んでいる。

(2) この中で、日本が、世界の他の国とは、全く異なる政策を採ろうとしている。GDPの2%にも上る緊急の財政支出を組んで、更に、日本銀行にデフレからの脱却をコミットさせて、大胆な金融緩和に踏み込ませようとしている。これは勇気ある行動であり、しかも、既に成功の兆しが市場に表れている。

(3) 2009年に日本の国債利回りが一時的に上昇したとき、多くのエコノミストが「日本の財政は破綻寸前」と警鐘を鳴らしたが、全くの杞憂だった。その後、景気回復の希望が潰えると、金利は1%以下に低下した。

(Is Japan the Country of the Future Again? by Paul Krugman, New York Times Blog, January 11, 2013)

 日本政府が一体どれだけ債務を抱えられるか?つまり、政府のデット・キャパシティーについては、エコノミストの間でもコンセンサスがない、ということなのだろう。しかし、為替市場は将来の金融緩和を見越して、大きく円安に振れているが、債券市場では、将来の日本の財政破綻を見越して、日本国債が暴落しているわけではない。市場の反応を見る限り、クルッグマン氏に分がありそうである。

 エコノミストによる「アベノミックス」の論評のなかに、驚くようなものは見かけない。不況下におけるポリシー・ミックスとしては、いわば「教科書通り」であるので、当然といえば当然である。

「中央銀行の独立性」をどう考えるか?

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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