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円安と株高、真価が問われる安倍政権のこれからの経済政策

中口威 内外情勢アナリスト

 安倍政権が発足し、日銀に大胆な金融緩和を求めたことを背景に、円は70円台後半から90円台まで下落した。そしてこの円安を受けて、輸出関連産業を中心に業績改善期待が高まり、株式市場全体が活気付いている。はたしてこの円安と株高はどこまで続くのか。為替レートや株式市場に影響を与えるさまざまな要因を取り上げて、その先行きを検証してみたい。

為替レートの展望

ドル・円レートに影響を与える主な要因は二つある。

 一つ目は、経済のファンダメンタルズ、なかんずく、日本と米国の貿易・経常収支の動向である。2012年日本の貿易収支は6.9兆円史上最大の赤字となり、前年の2.5兆円から赤字幅は大幅に拡大した。これを所得収支で補い、経常収支は黒字を維持しているが、その黒字幅も徐々に縮小している。

 赤字の背景には、中国や欧州向け輸出の減少やLNGなどエネルギー資源の輸入増などがあるが、加えて六重苦といわれる国内産業を取り巻く厳しい経営環境のもと、輸出産業を中心に日本企業の海外シフトが進展しているという構造的な問題がある。

 一方で、米国の貿易・経常収支は今後徐々に改善する可能性が高い。米国内で進むシェール革命により、米国の原油・ガス輸入が減少し、経常収支を着実に改善するものと見られている。従い、貿易・経常収支の面からは、中長期的に、円売りの圧力が強まるものと思われる。

 二つ目は、日米間の実質金利の差である。現状日本の10年債金利が0.8%弱で物価上昇率(CPI)はほぼゼロ、一方米国の10年債金利はほぼ2%で、CPIは2%台前半、実質金利で約1%日本のほうが高い。だが1月22日、政府と日銀は2%の物価目標を設定し大胆な金融緩和を進めることで合意した。80年代後半のバブル期でも年平均1.3%であったCPIを2%に引き上げることの是非は別途問われるとして、仮に2%のCPIが達成されたとすれば、日米の実質金利は逆転し、市場は円を売ってドルを買うことになる。

 しかしながら、現状日銀の見通しでは、2014年のCPIは0.9%、他の要素が変わらないとの前提に立てば2014年時点でも日米の実質金利はほぼ拮抗し、この要因からは円売りあるいは円買いの、どちらの方向にも強い力が働かないことになる。

 以上より、今後のドル・円レートを展望するには、日米の貿易・経常収支の動向、ならびに日米の実質金利差をよく見守る必要があるが、当面、金利差の面から為替が急速に円安に向かう要素は少なく、今後の貿易ならびに経常収支の動向をより注視すべきと考える。

株価上昇は続くのか

 続いて株式市場の先行きについて検証してみたい。

 円安で潤うのは輸出産業が中心である。逆に、エネルギーや原材料、農産物などの輸入価格上昇を受けて、業績が圧迫される業種も少なくない。

 現通常国会で審議されている2012年度補正予算と緊急経済対策の中核をなすのは防災・減災対策や復興支援の公共事業であり、この恩恵を受けるのは土木建設ならびにその関連業界である。

 日本経済全体の先行きにはいまだ、いわゆる六重苦(円高、電力料金、法人税率、労働規制、温暖化ガス規制、経済連携の遅れ)ならびに少子高齢化と人口減少という多くの課題が山積しており、円安や緊急経済対策で恩恵を受ける一部業種を除いては、新年度以降の業績にそれほど明るい展望が持てるわけではない。

 日銀の金融緩和により供給される資金についても、金融機関から先の流れがよく見えていない。企業は手元資金が豊富であるにも拘わらず、設備投資の機運が盛り上がらず、新たな資金需要に乏しい。企業業績の先行きに明るい展望が持てない状況下、これらの余剰資金が直ちにリスクオンの株式市場に向かう可能性は極めて限定的である。

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筆者

中口威

中口威(なかぐち・たけし) 内外情勢アナリスト

【退任】内外情勢アナリスト。1970年伊藤忠商事入社、鉄鋼原料部配属。資源開発大学校研修を経て、76~80年鉄鉱石事業会社出向(豪州駐在)。帰国後は資源開発業務を担当後、85~87年 日本商工会議所・東京商工会議所出向。帰社後は、海外企画統轄部などを経て、92年10月政治経済研究所に配属。以降経営情報室、産業調査室、グローバル・センサー編集長などを歴任。約20年間調査情報業務を担当し内外情勢分析業務に従事。2012年3月末伊藤忠商事を退社。

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