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教員の駆け込み退職は聖職論で議論すべきことか~非合理な制度しか作れない怠慢~

原田泰 原田泰(早稲田大学教授)

 長引く経済停滞で民間賃金が減少しているなか、公務員賃金は相対的に高止まりしている。批判を受けて、国家公務員の賃金や退職金が引き下げられてきた。これに対応して、地方公務員の賃金や退職金も引き下がられてきた。

 ところが、地方公務員退職金が条例で引き下げられるとともに、退職金が減額される前に早期退職する教職員や警察官を増加していることが問題になっている(2013年1月24日朝刊各紙)。

 特に教員の場合、3月の学期終了前に退職されれば学校運営上困る。警察官でも、一定時期に大量に辞められたら困るだろう。早期退職しないことによる退職金の減額額は150万円程度と報道されている。1月または2月から退職金が引き下げられる場合が多いようなので、学期末までの2ないし3か月間の給与が得られなくなる。月の給与を40万円とすると、実際に損をするのは、150万円から40万掛ける2か月分または3か月分を引いて、30万円から70万円ということになる。

 特に教師の場合、聖職であるのに、自分の利益のために学校や生徒に迷惑をかけるのはけしからんという意見が多かったようだ。まあ、30万円から70万円くらいのことで誇りを失うなと言う人がいるのは分かる気もするが、人の所得だと思って気楽なことを言うな、給料の高い奴にそんなことを言われたくないという人もいるだろう。しかし、そもそも、この問題は、聖職論で議論すべきことだろうか。

非合理な制度しか作れない怠慢

 退職金の引き下げを決めた人々はこういうことが起きるのを予測できなかったのだろうか。わざわざ損をしろというのは無理がある。こういう制度を決める人は、組織の中でのエリートである。長い不況で、民間の優良な職が激減したために、地方公務員は、地方の超エリートになっている。にもかかわらず、こういうことの起きない制度を作ることができなかったのは、エリートの怠慢ではないだろうか。

 しかも、きちんと対応できた自治体もある。京都府警では、退職者の給与を減らして3月まで再任用することにしているという。東京都では、段階的に340万円減らしたが、定年前に自己都合退職した場合は支給額が減る仕組みにしたので、駆け込みの退職はないという(いずれも朝日新聞、1月24日朝刊)。

 国家公務員では、

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