2013年02月12日
農協と並んで、日本医師会はTPP反対運動を展開されています。反対の理由をまとめると、次のようなものでしょう。
「TPPはアメリカ主導の協定だ。アメリカは公的医療保険制度を見直して、混合診療を要求してきたことがあるので、TPPに入ると同じ事を要求される。また、TPPには、投資をした外国企業が投資先の国を訴えることができるISDS条項があり、アメリカ企業が日本政府を訴えて、国民皆保険制度(公的医療保険制度)の改悪を実現するおそれがある」
この主張は、どれだけ本当なのでしょうか?一つずつ検討していきましょう。
まず、TPP交渉は、アメリカの思うとおりに動いているのでしょうか?他の国はアメリカの言うことを聞かされてしまうのでしょうか?
交渉の現実は、逆です。皆さんの関心の高い薬価について、米国は医薬品業界の利益確保から、特許権保護や薬価決定プロセスの透明性を提案しましたが、薬価上昇を防ぎたい豪州やニュージーランドは一歩も引かないという強硬な反対姿勢をとっています。貿易と労働、貿易と環境、国有企業への規律など、アメリカが重点を置いている分野で、アメリカは他の国から反発を受け、孤立しています。豪州は、ISDS条項を認めないという強い態度を取っています。これ以外にも、多くの分野で、アメリカが他の交渉国から攻められているのが現状です。
次に、混合診療など、二国間協議でアメリカから一方的に要求されてきたことが、TPPでも要求されるのでしょうか?
それは、違います。二国間協議と違って、TPPは協定という法的なものだからです。公的医療保険制度の見直しをアメリカが二国間協議で要求したことがあったかもしれません。しかし、公的医療保険のような政府によるサービスは、WTOサービス交渉の定義から外れており、自由貿易協定交渉でも対象になったことはありません。
自由貿易協定の一種であるTPPの法的な枠組みに載ってこないものは、いくら二国間協議で要求されたとしても、TPP交渉で対象とはなりません。カトラー米国通商代表補が、2012年3月東京で行われた講演で、混合診療や営利企業の医療参入を含め、TPPで公的医療保険は取り上げないと述べたのは当たり前のことなのです。そもそも既に2年以上も経過したTPP交渉で、これまで議論されていないものが、交渉対象になることは、考えられません。
ISDS条項で日本政府は訴えられるのでしょうか?
ここに、「TPPは国民医療を破壊する―韓米FTAに学んだ医療者からの訴え」(京都府保険医協会編)という本があります。これは、米韓FTAのISDS条項により韓国政府が訴えられ、公的医療保険制度が崩壊するという韓国内での主張を真に受け、TPPに入ると日本も同じ目にあってしまうと主張したものです。
しかし、ここまで主張するからには、
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