メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

[4]元経産官僚・古賀茂明氏 自民党の犯した5つの大罪

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

 シリーズ「アベノミクスを聞く」第4回は、『日本中枢の崩壊』(講談社)がベストセラーになった経済産業省の元官僚、古賀茂明さんに聞いた。古賀さんは31年間、霞が関の官僚を務めてきただけに、霞が関の省庁の手口や自民党政治の体質を知り尽くしている。自民党・安倍政権が古い体質を復活させるのではないかと警鐘を鳴らしている。(インタビューは1月31日)

 

 

 ――いまの安倍政権が打ち出した政策をみると、霞が関の各省庁が総力を挙げて「球(たま)出し」したという印象です。

拡大古賀茂明氏

 常にそうなんです。自民党は官僚に頼らないと政策は出てこない。専門家のだれかに聴いて自分たちで政策を考えようということができなくて、何かあると、すぐ官僚に聞いてみよう、となる。せいぜい官僚から紹介してもらった専門家から聞くぐらいのことしかできない人たちです。

 

 今回の経済対策を見ていると、基本的に経済政策は官僚に任せるという感じです。安倍総理の頭の中には憲法改正や国防軍の創設という「美しい国」路線があるのでしょう。ですから経済そのものは総理の最終目標ではない。自らが目指す「美しい国」実現のためには、まず経済が強くならないと安定した基盤ができない、だから経済は大事である、と。でも、それは自分の最終目標ではない。

 

 前回の第1次安倍政権では自民党の塩崎恭久官房長官たちに経済政策を任せていましたが、今回の第2次安倍政権では、金融政策は浜田宏一さん(東大名誉教授)、高橋洋一さん(嘉悦大教授)、竹中平蔵さん(慶応大教授)を頼りにして、それ以外の政策は基本的に官僚に任せる、という印象です。

 

 特にミクロ政策は経産省です。人材の配置もはっきりしていて、今井尚哉さん(注・資源エネルギー庁で原発を推進してきた幹部)が政務秘書官に抜擢され、柳瀬唯夫さん(注・原発の輸出や拡大を決めた「原子力立国計画」の立案者)がやはり秘書官として官邸に入りました。ほかも石井裕晶さんが内閣府の経済財政担当の政策総括官、野原諭さんが甘利明経済再生担当相の秘書官に起用されています。ミクロは完璧に経産省ですね。官邸だけでなく、内閣府のラインも第1総括と第2総括というのができて、経産省ラインと財務省ラインとかできています。ふつう考えられませんよ、総括が2つあるなんて。

 

 経産省の本省も改革派はほとんどいなくなりました。本当に古き良き時代の「ノトリアスMITI」時代に戻っていく感じですね。ターゲティング政策といい、官民ファンドといい、民間の人はダメだから俺たちが出ていくしかない、という考え方ですよ。

 

 ――最近、経産省を取材していて驚いたのですが、はっきり「民間の人はダメだから我々が出ていくしかない」と明言される課長がいましたよ。

 

 経産省はそもそもそういう考え方の人の集まりなんです。この産業を伸ばそう、業界のみなさん集まってください、民間では思い切った投資ができないので、役所が入って呼び水投資のお金を予算でつけてあげましょう、だいたいこういうことです。

 

 製造業の割合が下がっているのに、経産省は製造業を担当する課ばかりが多いんです。ですから結局業界の人の話を聞く。すると陳情を受けて製造業のためになんとかしようというふうになる。圧倒的に比重を増してきたサービス産業なんか、担当している課が少ししかないから、忙しすぎてサービス産業全体を見ることができない。だから世の中のことを正確に現状認識する力がないんですよ。

 

 産業再生機構をまねて産業革新機構というのが創られたのですが、いまの取り組みをみていると、ダメな企業を余計ダメな方向に持って行こうとしているように見えます。たとえばルネサスエレクトロニクスの再建では、せっかくアメリカの投資ファンドのKKRが名乗りをあげたのだから、KKRに任せればよかった。

 

 ルネサスはそれまでLSIをトヨタやパナソニックに格安で提供して経営が悪化したのだから、KKRを通じて国際的な営業力を身につけて、たとえばドイツのフォルクスワーゲンやフランスのルノーとか世界中に販路を広げて、いいものを「高く」売る道を探れば良かった。それなのにそうしないで、革新機構が出資して今まで通りトヨタやパナソニックの下請けで血のにじむ努力をして価格を下げていこうという道を選択している。

 

 これでは、五輪柔道の暴力指導とか大阪の桜宮高校の体罰とまったく同じです。耐えて、耐えて血の涙を流してお客さんのために安く売るというのは、「美徳」でも何でもありませんよ。いかによそと違って高く売って楽をするかというのが世界の潮流なのに、日本は後ろに戻っていく、逆ですよ。永久に先進国になれないまま、没落していくことになりかねません。

 

 ――経産省が成長産業を見つけることできますか?

 

 できるわけないですよ、何が伸びるのかなんて官僚にはわかりませんから。

 

 これからは、あらゆる産業分野で世界に伍していける企業をどれだけ創ることができるのかという時代になってくると思います。経産省の従来のやり方で、「業界の人みなさん集まってください」とか、日本企業ばかり集めて「チームジャパン」を作るというやり方をとると、結局護送船団になってしまい、それではダメですね。がんがんいけるところを伸ばしていくしかないんです。そして、外国の企業でも雇用を生み出せる企業なら、リストラしか能がない日本企業より大切にしていくという、世界では当たり前のことをやるしかありません。

 

 成長産業は農業とか医療・介護、再生可能エネルギーの分野ですが、その3分野は株式会社が自由に活動できない世界です。各分野に、農業生産法人、社会福祉法人とか各省各局が所管する「ナントカ法人」が縦割りにできていて、株式会社は自由に参入できるようにはなっていないのです。

 

 でも農業や医療介護で自民党は戦うような政策をとることはないでしょう。自分たちが保護してきた分野ですからね。農協、医師会、電事連には、選挙でお世話になるから、自民党は、彼らに対して厳しいことはできません。

 

 だから私は自民党には5つの大罪があると言っているのです。

 

 ――どういうことですか?

 

 ひとつは借金大国にしたことです。国全体を公共事業に依存したものにしてしまった。公共事業全部が悪いわけではないものの、もはや公共事業では経済のカンフル剤にもならない。東京五輪のころの「公共事業神話」を2009年ごろまでひきずったのが自民党政治だったのです。それで自民党時代に900兆円もの債務になったのに、いまもまったく反省が見られない。

 

 国交省の官僚が言っていますよ。麻生政権の景気対策で出せる「球」(タマ)は全部出し切った。今回やれと言われても、もうない。クズみたいなプロジェクトを積み上げるしかなかった、と。

 

 2つ目は ・・・ログインして読む
(残り:約3174文字/本文:約6124文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』がある。近著に『東芝の悲劇』。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

大鹿靖明の記事

もっと見る