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[5] 若田部昌澄・早稲田大教授 インフレ目標はデフレ脱却に効果がある

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

 

 シリーズ「アベノミクスを聞く」第5回は、リフレ派の代表的な論者である早稲田大学の若田部昌澄教授にお出ましを願った。欧米など先進国の中央銀行がとうの昔に「インフレ目標」を掲げているのに、日本銀行はこれまであれこれ言い訳をして抵抗してきた。それなのに総選挙で大幅に議席を増やした自民党安倍政権に脅されると、あっという間に「転向」姿勢を表明。為替は円安に進み、株価も上昇し、この1カ月間の動きだけを見れば「リフレ派」の圧勝の感がある。(インタビューは2月6日)

 

 

 ――日銀の白川方明総裁が昨日(2月5日)、任期途中で退任を表明されましたが、あの人事をどうごらんになりましたか?

拡大若田部昌澄氏

 少しは「抗議」をこめたように見せて同情をひくというのもあるかもしれませんね。でも、政府に正式に抗議をするというのではないでしょう。

 

 「ちょっと抗議かな」ととられるぐらいならば、日銀にとっては悪くはないかなというようなものではないか、と(苦笑)。

 

 おやめになると言ったら円は2年9カ月ぶりの円安(93円台)になり、株価も上昇しましたね(注・6日の日経平均株価はリーマンショック後の高値の1万1400円台になった)。

 

 

 ――ずーっとインフレ目標に否定的だった白川総裁が、この1、2カ月間で大きな経済情勢の変化が起きたわけでもないのに、こんなにも大きく金融政策の姿勢を変えられたことをどう思いますか?

 

 ハハハハ(笑)。もし白川さんが筋を通してインフレ目標導入に反対するのならば、総裁、副総裁、政策審議委員全員が抗議の辞任をするということもありえましたよね。私は決してそんなことを勧めているわけではないのですが、あまりにもロジックが通らないですよね。

 

 ――日銀総裁の記者会見は、記者たちからの質問も同情的な内容が多くて、日銀におもねるというか、過度に相手の立場をおもんぱかるのが多くて、ストレートな質問が少ないように思いました。原子力村ではないですが、マスコミも一体となった「日銀村」みたいなのがあるのかな、と。社会部の司法クラブと検察との関係と、日銀と日銀クラブとの関係が、すごく似ているように思います。記者たちが与党化しているという。日銀もリフレ派を目の敵にし、自分たちこそがスタンダードなんだという自負が強すぎる気がします。

 

 昔からそうですよ。浜田(宏一)先生(注・米エール大名誉教授、内閣官房参与)や岩田(規久男)先生(注・学習院大教授)が日銀に呼ばれて意見を聞かれないというのは、とてもおかしいと思います。私だって日銀の中に足を踏み入れたことがないですよ。日銀は学者の意見を聞くのも、一定の範囲内の意見だけで決めているのでしょうね。

 

 アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)をみると、グリーンスパンはものすごく秘密主義で、記者会見をしない、親しい記者を一本釣りしてリークする、という手法をとりました。それによって自らにカリスマ性を持たせて権威を高めました。

 

 その後を継いだバーナンキは、そういうカリスマ性を高めようとはしない。実はグリーンスパンみたいなやり方は特異な例外で、90年代の世界の中央銀行で起きてきたことは、むしろカリスマ的なリーダーではなくて、民主的な透明な運営にしていこうという動きだったのです。結論から言うと、日本もそういう方向にすべきです。中央銀行が目標を掲げて、それがうまくいかないのならば、その説明責任を果たす。

 

 そのうえで掲げた目標に対して、利上げなり利下げをする、あるいはどういうオペレーションをするかということは、各中央銀行の判断に任せる。

 

 ――「手段の独立性」という問題ですね?

 

 そうです。目的の独立性と手段の独立性という二つの独立性がありますが、中央銀行が持つのは「手段の独立性」であるべきという議論です。

 

 ――今回の衆院選で自民党の安倍総裁が金融政策を選挙戦で訴えたことが引き金になって、インフレ目標導入につながっていきました。安倍さんの掲げるアベノミクスをどうご評価しますか?

 

 私は安倍さんが言っている「3本の矢」のうち、最初の矢である大胆な金融緩和については100%支持しますね。100点だと思います。世界中ですでに取り入れられていて、あたりまえの世界標準に、ようやく日銀も取り組んだと思います。

 

 しかし、2本目の矢の「機動的な財政出動」と、3本目の矢の「民間投資を呼び込む成長戦略」ということに関しては点数を下げてつけざるをえませんね。

 

 金融緩和と財政出動を一緒にやること自体は本当はいいんです。クルーグマン(米プリンストン大教授)の1998年の論文では、単なる金融緩和だけではダメで、インフレ目標は必要であることと、さらに財政出動も必要だと言っています。

 

 そういうことを踏まえて考えると、表面的な政策パッケージとしては合格点ですが、中身を点検してどうかというと……。

 

 うーん。防災や国家の危機管理は大変大事だと思いますし、正当化の理由もあると思いますが、国土強靱化に10年間で200兆円も投じると聞くと、首をかしげざるをえない。

 

 3本目の矢の成長戦略に至っては、 ・・・ログインして読む
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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』がある。近著に『東芝の悲劇』。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

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