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日銀新総裁は日銀の士気を下げよ

原田泰 原田泰(早稲田大学教授)

 白川方明日本銀行総裁が、4月8日の任期を前に、2人の副総裁とともに3月18日に辞任すると2月6日、突然発表した。中国海軍の艦船が海上自衛隊の護衛艦に射撃用レーダーを照射した事件や大雪予想報道によって一般ニュースの注目度は低くなってしまったが、経済メディアでは様々に憶測されていた。

 ただし、本人の弁では、日銀総裁と副総裁の任期のずれをなくし、新たな総裁が独自に金融政策を行えるようにすることが目的だという。そんなことなら早く言っておくべきではなかったかと思う。

 このずれができたのは、5年前に民主党が日銀総裁の国会同意人事に反対した結果、総裁代行だった白川氏が総裁になるのが遅れた結果生じたことである。しかし、普通に考えると、組織の継続性という観点から、総裁、2人の副総裁が同時に交代するという制度に問題があるのではないか。ずれが1月に満たないのでは意味がないかもしれないが、それでもあった方が良いのではないか。もし副総裁の一人が内部昇格なら、任期を短くして、意図的に任期のずれを作るべきではないだろうか。

 さて、日本銀行総裁の要件として、金融政策の理解、学識、語学力、国際性、交渉力、組織運営能力などがあげられているが、総理には、何よりも、まともな金融政策の理解を第一として選んでいただきたいと思う。

 安倍晋三政権が圧力をかけることによって、日銀は、これまで頑なに拒んできたインフレ目標政策を採用し、不充分ながら金融緩和の方向に進んだ。インフレ目標政策とは世界40か国以上の国が採用している政策で、なんら新奇な政策ではない。

 その結果、円が下落し、株が上がり、企業利潤が増大した。これが設備投資や雇用に結びつくまでには多少、時間がかかるだろうが、良い方向に進んでいることは確かである。であるなら、なぜ今までそうして来なかったのか。

 これまで誤った金融政策を行ってきた人とその仲間は、金融政策の基本的な理解に欠けているのだから失格である。後の条件のうち、語学力などは明確であるが、組織運営能力とは何を意味するのだろうか。

組織運営能力とは何もしないこと

 日本銀行には5000人近い職員がいる。金融政策をするだけなら、10人もいらないだろう。経済指標を見ながら、国債の売買をしてマネーの増減をするだけだ。議事録を作ったりする人を含めても、100人もいれば十分だろう。統計部局にもう少しいるだろうが。

 残りの人々は何をしているのだろうか。銀行監督は必要だろうが、金融庁とも仕事がかぶる。銀行監督の仕事が一番必要だったのは、バブルとその崩壊の後始末、不良債権を処理するときだったが、何の役にも立たなかった。お札を配る人は必要だが、作っているのは財務省の印刷局である。残りの人々が何をしているか、私は知らない。

 日銀に限らず、霞が関の官庁も、何をしているのか分からない。政治家は、これらの官庁のトップであるが、実は何をしているのか何も知らない。知って行動を咎めようとすれば軋轢で大変だ。これは、民主党政権が失敗した一因でもある。

 何もしなければ、組織は動いていく。それが世の中のためになっているかどうか、

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