2013年02月21日
シリーズ「アベノミクスを聞く」第6回目に登場する有識者は、日本の財政危機を憂える一橋大学経済研究所教授の小林慶一郎氏だ。世間はアベノミクスに浮かれすぎてはいませんか、危機のマグマはたまっているのですよ――温和な語り口で、そう諭す「警世の士」である。(インタビューは2月8日)
――アベノミクスのご評価はいかがですか?
安倍総理が打ち出した「3本の矢」のうちの最初の一つである金融政策は滑り出しがよさそうで、心理的な効果も含めてよかったかなと受け止めています。
3本目の矢の「成長戦略」は、医療介護の規制緩和や株式市場・労働市場の改革のような「大物」のネタに手をつけないと、ちょっと期待薄ですね。いままで、いろんな成長戦略をつくってきましたがうまくいっていない。今回も公的ファンドなどで競争力を失った企業を助けるようであれば、成長しない人たちを助けるだけではないか。それは成長戦略ではないのではないか、と思います。
私が特に憂えているのは、2本目の矢の「財政の機動的出動」についてです。政治的には参院選まで「バラマキ」を展開するというのはやむを得ないことかもしれませんが、中長期的に財政を立て直すという方向を示さないと大変なことになると思うのです。
しかし、今の安倍政権がはたして財政を立て直していくようなリーダーシップがあるのかどうかは疑わしい。ひょっとしたら矢は的を外れてしまうかもしれない。
――どういうことですか?
早くも「景気が上向いたら消費税を増税しないでいい」という声があがっていますが、いったい、どういう根拠でそういう見方が出てくるのだろうと思いますね。
米国UCLAのゲイリー・ハンセン教授と南カリフォルニア大のセラハティン・イムロホログル教授は、日本のインフレ率が1%で、現状の社会保障制度をおおむね維持するとした場合、消費税率を33%ほどに引き上げないと、日本の公的債務が無限大に膨張するのを止めることができない、と試算しています。今の時点でも、公的債務の対GDP比率が無限大に向かって発散していく途中ですが、それを有限のところで止めるには、消費税率を30%以上にしないと止まらない、というのです。
これは何も奇矯な意見ではありません。データをもとに長期的に予測をすれば、自然に出てくる結論なので、日本の多くの経済学者や市場エコノミストなども、みな、消費税率を30%以上にしないともたない、とうすうすは分かっています。だからこういう試算結果を話しても、経済の専門家は驚かない。しかし、消費税率30%という数字を言うと、普通の人は驚いてしまいますね(笑)。
いまのは1%インフレのケースですが、これが2%インフレとすると、たとえば年金の支出額は若干減ります(マクロスライド方式によってインフレ率に見合う増額をしないで、むしろインフレ率よりも抑えぎみにする仕組みが埋め込まれているからです)。それで財政の負担を少し抑えることができますが、それでも消費税率を28%ぐらいにしないとなりません。インフレ2%で財政が楽となるといっても、たかだか消費税率4、5%分ぐらいの節約にしかならず、28%もの消費税が必要になってくるのです。
つまり、たとえ金融緩和をやってインフレにしたとしても、大幅な増税か社会保障費を削減するか、どっちかをやらないとならない。この点は、なにも変わらないのです。
――そうなんですか! そういうことをもっと新聞で書いてほしいですよね。あるいは小林さんを含めて学者の方々も、もっと発信すべきではないのですか。
言っているのですが、しゃべっても記事では小さく扱われて(苦笑)。突拍子もない意見だと思われているのでしょう。
でも、いま申し上げた米国の学者たちは向こうの学界の重鎮なのですよ。アメリカの専門家が、素直に日本の公表された数字をもとにして淡々とシミュレーションしてみたら消費税率30%以上が必要という結論になったということです。
――じゃあ、マスコミのアベミクス礼賛は浮かれすぎでミスリーディングになってしまうかもしれませんね。
金融緩和ですべてが解決するという幻想を振りまくべきではないと思いますよ。
多少、円安・株高で輸出産業が儲かるようになるということではあるでしょうが、一方で東電の燃料調達費はかさむし、景気押し上げ効果がどれほど大きいか疑問ですよ。
そもそも
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