メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

TPP参加でも自民党は参議院選挙で負けない

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 総理訪米に合わせ、TPP参加問題が再度浮上してきた。焦点の日米首脳会談は明日22日に迫った。

 自民党の外交・経済連携調査会は、先の選挙公約である次の6つの項目を確認した基本方針をまとめた。これらの項目は、いずれもクリアーできるものばかりである。つまり、TPP参加でも、自民党は公約違反を問われない。

(1) 政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する。

(2) 自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。

(3) 国民皆保険制度を守る。

(4) 食の安全安心の基準を守る。

(5) 国の主権を損なうようなISD条項(注)は合意しない。

(6) 政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。

 まず、(2)からみよう。アメリカの自動車産業が日本の自動車市場の閉鎖性を問題視しているのは事実であるが、1980年代や90年代ならともかく、今の時代に、管理貿易そのものである「数値目標」を要求するとは、思えない。要求してきたら、「アメリカは、TPP交渉で、21世紀型の一段高いレベルの自由貿易協定を目指しているのではないか」と切り返せば、アメリカは二の句を告げられない。

 (3)の国民皆保険制度、公的医療保険制度は、“政府による”保険という“サービス”である。政府によるサービスはWTOサービス協定の対象から外されており、それを基礎とする自由貿易協定でもこれまで取り上げられてきたことはないし、TPPでも取り上げないとアメリカの代表も明言している。単なる二国間協議で要求されることと、法的な土俵の上で議論されるTPPとは異なるのである。TPPで国民皆保険制度がおかしくなるというのは、通商交渉の基本を知らない評論家たちによって作り上げられた、「おばけ」の一つである。

 (4)食の安全規制でも、各国は国際基準より高い健康保護の水準を設定し、これに基づき独自の安全基準を設定できることは、WTO・SPS協定で認められている各国の主権的な権利である。TPPはこれを否定するものではない。

 (5)のISD条項というのは、我が国のTPP反対の評論家による、投資の条項の呼び名である。これは世界の通商交渉や国際法に関係する者の間では正確にはISDS“Investor State Dispute Settlement”条項と呼ばれているもので、外国に投資して企業が損害を受けた場合に、投資先の政府を訴えることができるというものである。しかし、国内企業に比べて外国企業を不当に差別的に扱うのであればともかく、国家の正当な政策が問題とされないことは、国際的に定着している。この条項があるからといって、国の主権が損なわれることはない。

 この条項について、少し詳しく説明しておこう。既に日本が結んだたくさんの自由貿易協定にこの条項は存在する。米国企業がタイに子会社を作って日本に投資すれば、日タイの自由貿易協定を使って、今でも日本政府を訴えられる。日本の企業もオランダ-チェコ間の投資協定を利用して、チェコ政府を訴え、勝訴している。アメリカとの間の自由貿易協定ではISDS条項の導入を拒否したオーストラリアも、香港との投資協定によって、アメリカ企業に訴えられている。日本政府が訴えられないのは、日本が外国企業だけを不利に扱うような政策をとっていないからだ。

 アメリカが怖いのかもしれないが、 ・・・ログインして読む
(残り:約1587文字/本文:約2989文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

山下一仁の記事

もっと見る