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TPP日米共同宣言をワシントンで読み解く(下)

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

拡大オバマ大統領(右)と会談する安倍晋三首相=2013年2月22日午後1時37分、ワシントン、樫山晃生撮影

 TPPに関する日米共同声明では、第1文で、「全ての物品が交渉の対象とされるとともに、日本は交渉に参加する以上包括的で高いレベルの協定を目指すべきである」と指摘した。

 そのうえで、第2文で、〈1〉日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品というように、両国ともに2国間貿易上のセンシティビティー(影響があるので慎重に扱うべき事柄)が存在する〈2〉最終的な結果は交渉の中で決まっていく以上、交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認した。

 第3文で、日米の事前協議に関連し、自動車と保険部門に「残された懸案事項」があると指摘し、米側の要望も踏まえて必要な協議を続けることも明記した。

 「全ての物品が交渉の対象とされる」という部分は、とりたてて意味のない当たり前の表現である。例外を設けるかどうかは、テーブルに出して交渉した結果である。ガット・ウルグァイ・ラウンド交渉で、コメについて、非関税障壁を関税に置き換えるという関税化の例外にしたが、長時間かけて交渉した結果、やっと例外となったのである。コメは最初からテーブルに出さなかったのではない。

 サービスについてのネガティブ・リストというのは、どのサービスを自由化の例外にするかというリストである。これはテーブルに出して交渉した結果、決定される。はじめから例外のリストがあるのではない。サービス交渉とは、国ごとにどのサービスを例外とするかしないかの交渉であると言ってよい。物品でもサービスの交渉でも、参加国があらかじめこれを例外にするといって交渉に参加することはありえない。(「おかしなTPP国会論戦」参照)

 「包括的で高いレベルの協定を目指す」ことも、共同声明にあるとおり、2011年のTPP交渉枠組み合意で合意されていることを確認したに過ぎない。多数の農産物を例外とするようなレベルの低い協定で収まるとは、日本の農業界ですら思っていない。つまり、共同声明の第一文は、具体的に意味のあるものではなく、自由貿易推進という米国と日本の原則を確認し合ったというものだろう。ここは、日米ともに問題のあるところではない。

 第2文は、今回の首脳会談で、安倍総理が感触を得たいとしていた、関税撤廃の例外である。

 日本にとって最も重要だったのは、いうまでもなく(2)である。ただし、

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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