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米国シェールガス革命と世界の地政学的変化

中口威 内外情勢アナリスト

 米国で、シェール革命と呼ばれる、頁岩(シェール)中に賦存する天然ガスと原油の採掘が進んでいる。深度数千メートルにあるシェールを水圧で破砕し、天然ガスや原油を回収する技術が商用化されたのである。そしてこの革命が、米国経済や世界のエネルギー情勢に与える影響が、想定以上に大きいことが明らかになるにつれ、その動きが俄かに注目され始めた。一方そのなかで、微妙に変化する米国の中東政策の影響が気になる。本稿では、こうした一連の動きについて概観してみたい。

揺れ動く世界のエネルギー情勢

 EIA(米国エネルギー省エネルギー情報局)によれば、世界のシェールガスの物理的埋蔵量は717兆立方メートル、このうち現状採掘可能な量は188兆立法メートルとされ、これは現在の在来型ガスの採掘可能量にほぼ匹敵する。2011年の世界の天然ガス需要は約3兆立法メートルゆえ、この前提にたてば、天然ガスの可採年数は、約60年から120年に倍増する。そしてこのシェールガスによる増加分188兆立法メートルのうち、米国には24兆立法メートルが賦存するとされ、これは米国の現在の年間生産量約6500億立法メートルの37年分に相当する。

 この採掘が始まったことを契機に米国の天然ガス価格は低下し、現在、100万BTU(British thermal unit)当り3~4ドルで推移している。これを原油価格に換算すれば、バレル当り20ドル前後であり、今後米国で、原油や石炭、および原子力から天然ガスへのエネルギーシフトが進むであろうことは想像に難くない。そしてこれが今後の米国の天然ガスならびに原油輸入の減少を促し、ひいては世界のエネルギー需給をも揺るがすことになる。

 繰り返し報じられているように、米国がカタールから輸入する意向を表明していたLNGが不要となったことにより、カタールで生じた余剰のLNGが欧州に供給されている。また米国で余剰となり価格の下落した石炭が欧州に供給され、欧州の天然ガス需要を代替している。折からの財政・金融危機とも相俟って、欧州での天然ガス需給が大きく緩んだことを背景に、ロシアのエネルギー政策の東アジアシフトが始まった。

 ともあれ、世界的なエネルギー需給がしばし緩和されることは間違いなく、その結果、懸念されていた所謂オイルピークがある期間先送りされることになる。ただそうは言っても所詮有限の化石燃料である。物理的な埋蔵量とされる717兆m3のどれぐらいが、今後可採埋蔵量となるのか、また現在年間約3兆m3とされる天然ガスの需要がどれぐらい増加するのかにもよるが、シェールガスもいずれは枯渇し、その時は再びオイルピークの問題が再燃する可能性は残る。

米国経済再生と双子の赤字改善

 100万BTU当り3~4ドルで推移するシェールガスが、米国経済に与えるインパクトは大きく、その影響は広範多岐にわたる。

 天然ガス・原油の採掘そのものに加えて、石炭や原子力から天然ガス発電への転換、天然ガスを原料とする化学プラント、そこから派生する化学品の生産、還元鉄プラントや電気炉製鉄、ガソリンから天然ガス自動車へのシフト、その他電力コスト低下に伴う製造業の米国回帰などが考えられ、米国経済が自律的再生に向かう可能性は急速に高まっている。

 また同時に、米国の天然ガス・原油の輸入が減少することにより、米国の貿易・経常収支が改善することは間違いない。さらに、今後中東での軍事費が大幅に削減される可能性が高く、このぶん米国の財政赤字も改善する。加えて、前述米国経済再生に伴う企業業績の改善や消費の拡大と、そこから生じる税収増も期待され、財政赤字の縮小幅はさらに拡大する。

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筆者

中口威

中口威(なかぐち・たけし) 内外情勢アナリスト

【退任】内外情勢アナリスト。1970年伊藤忠商事入社、鉄鋼原料部配属。資源開発大学校研修を経て、76~80年鉄鉱石事業会社出向(豪州駐在)。帰国後は資源開発業務を担当後、85~87年 日本商工会議所・東京商工会議所出向。帰社後は、海外企画統轄部などを経て、92年10月政治経済研究所に配属。以降経営情報室、産業調査室、グローバル・センサー編集長などを歴任。約20年間調査情報業務を担当し内外情勢分析業務に従事。2012年3月末伊藤忠商事を退社。

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