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 昨年12月に安倍新政権が発足して以降、円安・株高を受けて景気回復への期待が高まっている。今年の成長率が予想以上に回復した場合、銀行では与信費用の上昇が抑えられ、業績にプラスに働く。

 一方で、日本経済は長引くデフレ、労働力人口の減少など多くの問題を抱えているため、構造改革が進展しなければ、資金需要の回復は弱いだろう。また、新政権は日銀に大胆な金融緩和を求めており、低金利が長期化する中で銀行の預貸金利ざやは一段と圧迫される。さらに、高水準の新規国債発行が続いており、多額の国債を保有する銀行業界にとって長期金利上昇のリスクは高まっている。日本政府の財政再建が進まず、ソブリンが格下げとなった場合、邦銀の信用力はネガティブな影響を受けるだろう。

景気回復の持続性は不透明

 ユーロ圏をはじめ世界経済の回復力が総じて弱い中で、邦銀にとって景気と資産の質の動向は引き続き重要なテーマである。

 円の対ドル相場は欧州債務危機の影響などで上昇していたが(2012年は平均1ドル80円程度)、現在では90円程度と10%強低下している。仮に10%の円安が1年間続くと、理論的には日本では輸出増加を通じて国内総生産(GDP)成長率は0.3%ポイント上昇し、消費者物価指数(CPI)は0.2%ポイント程度上昇すると推計される。最近の円安によって一部の輸出企業の収益には回復の兆しが見られるほか、株価の上昇を受けて企業マインドが好転した。

 S&Pでは、日本のGDP成長率を2013年は1.4%と予想しているが、今後米国の景気が回復するとともに、国内の経済対策が予定通り実施されれば、今年後半に景気は持ち直す可能性があるとみている。邦銀では与信費用が2008年度をピークに減少しており、それが純利益の回復を支えてきた。長引く企業業績の低迷などから、与信費用は2013年には増加に転じるとみているが、景気回復はその圧力を緩和させるだろう。

 一方で、経済が順調に改善に向かっているとみるのは時期尚早であろう。

 第一に現在の内閣が安定した基盤を確保し、継続的な政策を打ち出せるのかは2013年夏の参議院選挙の結果等にかかっている。

 第二に金融機関の流動性はすでに潤沢であり、追加的な金融緩和策の効果は限られるとみられる。

 第三に円安にはネガティブな影響もある。例えば、食料・原材料価格の上昇は企業にとってコスト増加につながり、個人消費にもマイナスの影響が及ぶ。また、国内の大半の原子力発電所での運転停止期間が長期化し、代替燃料としてのLNG(液化天然ガス)などへの依存が大きく高まっている中で、LNGの輸入価格の上昇は電力料金の値上げを通じて個人や企業の負担になる可能性が高い。

 昨年、東京電力は個人向けの電力料金を8%強、企業向けを平均で15%値上げしたが、同社の2012年度決算は依然大幅な赤字の見込みであるほか、他の電力会社でも同年度業績は大きく悪化する見込みである。

政府、企業とも構造的な問題への取り組みがカギ

 業種により違いはあるが、国内市場の縮小が続く中、企業を取り巻く環境は依然厳しい。例えば、昨年以降格付けが低下したシャープなどの国内家電メーカーは、コア事業の製品価格の低下、海外メーカーとの競争激化から、収益の改善に苦慮している。これらの企業が安定した収益源を確保し、財務内容を改善させるには、なお時間を要するとみられる。

 大手企業の合理化の影響を受け、中小企業の状況も深刻である。中小企業向け貸し出しは、 ・・・ログインして読む
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筆者

根本直子

根本直子(ねもと・なおこ) 早稲田大学 大学院経営管理研究科 教授/アジア開発銀行研究所、 エコノミスト

日本銀行、S&Pグローバル、マネージング・ディレクターを経て現職。主なリサーチ分野は、金融機関経営、日本およびアジアの金融市場、包摂的成長。 早稲田大学法学部、シカゴ大学経営大学院、一橋大学商学研究科、商学(博士) 主な著書に「韓国モデルー金融再生の鍵」「残る銀行沈む銀行―金融危機後の構図」 財務省 関税・外国為替等審議会委員、中部電力、コンコルディア・フィナンシャルグループ社外取締役、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF) 経営管理委員。

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