メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

F-35談話は日本人を狙うテロを増長する

小原篤次 大学教員(国際経済、経済政策、金融)

 ハリウッド映画「アルゴ」が第85回アカデミー賞作品賞を受賞した。イラン革命時の在イラン米国大使館人質事件を扱ったものである。アルゴは、9・11米国同時多発テロ事件の首謀者とされる国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディン殺害を描いた同映画「ゼロ・ダーク・サーティ」などとオスカーを争った。中東、そして米中央情報局(CIA)が重要な役割を演じる点でも共通している。とくに後者は、アルジェリア人質事件以降、日本でも議論が始まったインテリジェンス(諜報)活動を浮き彫りにしている(注1)。実話をベースにしているだけに、007やミッションイン:ポッシブルのようなアクション映画とは一線を画している。ベトナム戦争を扱った映画のような重さと冷酷さを感じた。

 現実のオバマ政権は、ブッシュ政権の負の遺産、イラク(2011年12月)・アフガニスタン(2014年末目標)からの米軍撤退に腐心してきた。そうした米国の中東への軍事的な関与を低下される中、アラブの春が起き、中東を代表する親米国家、エジプトでは、穏健イスラム組織のムスリム同胞団出身のムルシ氏が大統領選挙で勝利し、イスラム色の強い新憲法を起草するなど地域バランスが変わろうとしている。米国はリビアにも直接的に軍事介入しなかった。オバマ政権は中東・北アフリカにリスク回避的な行動を基本としている。

アルジェルアの人質は国別に管理された

 日揮社員ら日本人10名が殺害されたアルジェリアのガス施設襲撃事件で、首謀者はアルカイダ系武装過激派である。テロで使用された武器は、カダフィ政権崩壊後のリビアから流れた可能性が高いとされる。そして彼らは国別に人質を仕分け・管理した。

 宗教に寛容で無頓着な日本では、テロへの対決と単純化して理解されやすいが、中東・北アフリカなどイスラム圏からすれば、異教徒との戦いとも理解される。米国にしろ欧州にしろ、イスラム圏出身の国民も多数抱えるだけに、日本ほど実は単純ではない。

日本は東洋なのか西洋なのか

 中東で岡倉天心の話になり、驚いたことがある。中東やイスラム圏を訪問して、「日本は東洋なのか西洋なのか」、「アジアなのかヨーロッパなのか」という問いかけを経験するのは、筆者だけではないだろう。中国人との会合より、国際情勢にセンシティブで、政治理念まで問われる。政治と経済が不分離である。

 中東・北アフリカで、日本の関心は長年、原油や資源確保にある。イスラエルとアラブ諸国が全面対立した第4次中東戦争時(1973年11月22日)。田中政権時、中東問題に関する二階堂官房長官談話として、「引続き中東情勢を重大な関心をもつて見守るとともに、今後の諸情勢の推移如何によつてはイスラエルに対する政策を再検討せざるを得ないであろう」。アラブ支持の姿勢を明らかにしている。それから40年が経過しても、イスラエルとパレスチナの問題は解決していない。中東は、困難で長期間にわたる世界屈指の紛争地域である。

F-35導入では日本よりイスラエルが主な顧客

 そんななか、安倍政権は3月1日、「F-35の製造等に係る国内企業の参画についての内閣官房長官談話」を発表した。自衛隊導入が内定している最新鋭ステルス戦闘機F35(米ロッキード・マーチン社製)がイスラエルに輸出される可能性があるためである。

 米国による「厳格な管理」を前提に、日米協調と日本国内の防衛産業の保護、育成を優先したとの論旨で作文されている。清谷信一氏がWEBRONZAの「FXはユーロファイターを採用すべきだ」で指摘したように、F-35の導入が他の選択肢に比べて日本の防衛産業にメリットがあるわけではない。よって、日本の米国政府の要請に基づいて米国軍事産業にあくまで部品の一部を供給しているだけだというロジックだ。

イスラエルは2008年に導入を決めていた

 米国などからすれば、

・・・ログインして読む
(残り:約1221文字/本文:約2821文字)