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鴻海からサムスンへ、綱渡りするシャープの今後

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 シャープが3月6日、サムスン電子から約3%(103億円)の出資受け入れを発表した。昨年7月に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が約束した670億円(9.9%)出資のメドが立たず、代わりにサムスンの支援を受け入れた。

 シャープは昨年12月には米半導体大手クアルコムから100億円の出資を取り付け、米インテルとも交渉を継続中。アップルとはiPadやiPhone向けの液晶生産でつながっている。世界のトップ企業を取り込んで生き残りを図る粘り腰は、正直なところ驚きだ。

大型パネルを生産するシャープ堺工場の全景(大阪府)

 シャープの切り札は、堺工場で生産する60型の液晶パネルと、亀山工場でIGZO技術(イグゾ:)を生かして作る中小型液晶。だが足許を見られ、資金提供と引き換えに、IT列強からそのおいしいところを狙われている。

 昨年11月、米国の巨大スーパー・ウォルマートで米VIZIO社が60型高性能テレビを688ドル(55000円)という破格の値段で売り出し、業界を仰天させた。

 VIZIOは米国テレビ市場2位のファブレス(工場を持たない)企業で、実際に生産するのは受託生産が専門のホンハイだ。その液晶パネルには堺工場の60型が使われた。

 堺工場は2009年に完成し、60型パネルを年間600万枚生産できる。しかし当時、世界不況で大型テレビは売れず稼働率が低迷。経営が悪化したシャープは、ホンハイから堺工場の運営会社に37%(660億円)の出資を受け入れた。

 ホンハイのおかげで堺工場の稼働率は3割から8割に上がったが、自慢の製品を安売りの目玉にされたシャープは立場を失った。シャープ本体への9.9%の出資交渉も下落した株価をめぐって対立したままで、ホンハイとの関係は冷え切った。今月26日には支払い期限が来る。

 一方、米国テレビ市場で1位を保っているのがサムスンだ。ホンハイとVIZIOの動きを見て、そのサイズを持たないサムスンはシャープへ接近。亀山工場へのパネル注文を増やして心証を良くし、出資話を持ちかけたのである。

 サムスンの狙いはホンハイと同じく堺工場の60型パネルを手に入れ、米国テレビ市場でVIZIOに対抗すること。シャープ製の60型パネルが、VIZIOとサムスン双方の大型テレビに姿を変えて競い合うことになる。

 シャープも独自ブランドの60型テレビ「アクオス」を持っているが、VIZIOとサムスンが激突する米国市場で、独自の存在感を出すのは難しくなるだろう。

 米国では景気回復に伴って大型テレビが売れ始めている。せっかくの好機到来なのに、経営危機につけこまれてパネルを安く買われ、そのうえ自社ブランドの販売にまで悪影響が出るのは、さぞ悔しい思いだろう。

 シャープのもう一つの切り札、

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