団藤保晴(ネットジャーナリスト)
2013年03月28日
この3月、1カ月千円までの価格で広範囲な音楽が聞き放題になる定額制音楽配信サービスが国内でも相次ぎ動き出した。違法な音楽ダウンロード摘発に躍起になって、消費者を束縛する方向ばかりが目立っていた国内の音楽産業が内外を取り巻く情勢から方向転換したのだ。洋楽を中心に1300万曲のソニー「Music Unlimited」と、邦楽中心で100万曲を提供する「レコチョクBest」が主なサイトである。前者は非常に幅広い機器で聞け、後者は今のところスマートフォンだけながら夏にはパソコンでも使えるようになる。
CDなどオーディオレコードと有料音楽配信の売上高推移を2005年以降でグラフにした。CDが売れなくなったと言われて久しく、2005年の3672億円が2011年には42%減の2116億円まで落ち込んだ。2012年は2277億円と底打ち感が出たのが明るい材料だ。一方の音楽配信はCD販売の不振を補うように伸び続けていたが、2009年の909億円をピークに減少に転じ、2012年は542億円とつるべ落としになっている。民間調査機関の調べでは、音楽にお金を使わない、音楽ダウンロードもしない層が年々増えており、音楽産業のジリ貧傾向が浮かび上がっていた。
音楽ソフトは1998年には6千億円を超えていたのだから隔世の感が強い。CD不振には一部のJ-POPアイドルに偏った売れ筋音楽の中身にも問題があるが、音楽配信に限ればスマートフォンの急速な普及に音楽配信の構造が合わなくなった変化が大きく作用した。国内の携帯電話は世界標準とは異なる独自のスタイルになっており、「着うた」などのダウンロード配信が海外にはない大きな市場を形成していた。スマートフォンに買い換えた消費者はそれが使えず、スマートフォンで使いやすいインターネット上の無料音楽サービスなどに流れることになった。
世界規模でも音楽の売上は近年減り続けていて、2012年は音楽産業が一息ついた年だった。レコード会社1400社が加盟している国際レコード産業連盟のまとめでは、2012年の世界音楽売上は前年比0.3%とわずかながらも増加に転じ1兆5千億円になった。そして、海外では音楽ソフト売上減少を補うために、聞き放題の定額制音楽配信サービスが台頭していて、ポップスからクラシックまで2000万曲を揃えた欧州の「スポティファイ」がその代表だ。
スポティファイ成功の要因はソーシャルネットワークの仕組みを取り入れて、みんなで音楽を楽しむ環境・雰囲気を形成した点が大きい。スポティファイがスタートした国ではフェイスブックのID、パスワードと共通化され、フェイスブックで「この曲は良いよ、聞いてみて」と友人の書き込みがあれば、その場で音楽を聞いてレスポンスを返すことができる。そのスポティファイが日本上陸を狙っていると噂され、守りに入るばかりだった日本の音楽各社の背中を押したと言える。
実際にソニーの「Music Unlimited」を使って好きなアーティストを検索すると、音楽の聴き方が変わりそうだと感じる。CDをよく買っていたころでも無制限には買えなかった「知っていて聴けなかったアルバム」がごろごろ並んでいて魅力的だ。音楽好きには堪らないサービスだと感じた。インターネット上に無料の音楽ソースは増えているが
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