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黒田日銀、「異次元緩和」の意味

賀来景英 エコノミスト

 今回の黒田日銀新総裁の下での金融政策の「異次元緩和」は、いわゆる「アベノミクス」の柱をなすものとして、一般に歓迎され、特に市場は好意的な反応を示しているようだが、筆者はあえてこれに疑問を表したい。

 まず、政策の前提としての、日本経済の現状に即した政策の優先課題の位置づけである。全体としての「アベノミクス」同様、今回の金融政策の方向転換も、デフレからの脱却を日本経済の最優先課題とする認識に基づいているが、筆者はこれに疑問を待つ。

 この点に関しては、昨年12月5日付けの本サイトで述べたので、詳論は省くが、要は、

(1)長期にわたるデフレは、日本経済の停滞の結果であり、原因と考えるべきでないこと、

(2)しかも、その長期停滞は、基本的に、90年代以降の金融政策の失敗に帰せられるべきではなく(これに先立つ80年代後半から90年代当初のバブル期の金融政策はともかく)、日本経済の実体的・構造的要因に帰せられるべきであること、

(3)かつ、現在のマイルドなデフレは、幸い、日本の金融システムが過剰債務に基づく危機的状況を脱しているので、それからの脱却自体が最優先課題とされるべき状況にはないこと(デフレを生み出している状況からの脱却こそが求められている)、である。

 次に、金融の「量的緩和」の有効性についてである。今回、日銀は、ベース・マネー(日銀券発行高プラス日銀当座預金残高)の倍増を政策目標として掲げている。

 この政策目標は、かっての2001年から2006年までの「量的緩和政策」の当時の目標と基本的に同じである(目標とされる数値が、当時は日銀当座預金残高であってベース・マネーではなかったが、もともと、ベース・マネーの他のコンポネントである日銀券は日銀が短期的に直接コントロ—ル可能な変数ではない)。

 その意味で、今回導入された緩和政策が「異次元」を標榜し得るのは、その量的緩和の程度が著しく大きいこと、「量的緩和」実現のために日銀の買い入れる資産のリスク許容度を大きく引き上げていること(残存期間の長い国債の買い入れなど)、そして何よりも、今回、「何でもあり」という、2%のインフレ目標達成へのコミットメントを強く打ち出していること、にあろう。

 問題は、日銀当座預金ないしベース・マネーを増やす「量的緩和」が実体経済を浮揚させる(その結果としてデフレから脱却させる)効果のいかんであろう。実体経済にとって意味があるのは、

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