2013年04月12日
日銀が打ち出した新たな金融緩和で円安が進み、輸出企業が潤っている。自動車業界はこの3月期に7社で計3000億円の為替差益を出した。黒田総裁は「企業のインフレ期待に働きかければ、設備投資などの需要が出てきて経済は拡大する」と予測する。
市場は称賛一色だが、ここは冷静に、円安が本当に製造業の輸出量や設備投資の増加につながるのかを考えてみたい。
製造業は1990年代から、大企業も中小企業も海外での生産比率を高めてきた(グラフ1)。円高になれば過去最大級のM&Aを行い、グローバル化を進めた。国内にあった開発・生産・輸出の拠点は世界的な規模で再配置され、為替に左右されにくい体質変化を遂げた。
海外生産比率が30%と低いマツダの場合、3月期の為替差益は184億円。円安の恩恵を受けている企業の一つだが、山内孝社長は「日本で作って輸出する経営モデルの時代はもう終わった。今後は市場が成長する国で作って売る『地産地消』を進める」と、路線転換に踏み切る。
国内市場は人口減少で縮小に向かっていく。マツダは今年、メキシコ工場の生産能力を6割増強する。成長するブラジルなど中南米への輸出をにらんだ布石。ホンダもインドで生産能力を2倍に引き上げ、先行するスズキ、現代自、地元メーカーのタタなどを追い上げる。
世界の自動車市場は、2005年は米欧日で6割を占めたが、2012年には4割を切り、代わって中国、インド、アセアン、ブラジルなどの新興国が5割以上を占めている。
自動車に限らず、新興国では先進国企業に韓国勢や地元企業が混ざり合って競争が激しい。そこで勝つには、現地の生活感覚に合った低コストの製品を、現地でスピーディーに開発・生産することが不可欠で、日本からの輸出では対応しきれない。
こうして製造業のほとんどの分野で海外生産比率は高まり続けている。それに合わせて設備投資も、為替相場やリーマンショックに関係なく、一貫して海外での投資の伸び率が国内より高い(グラフ2)。
これからも、設備投資をするなら「まず成長する海外で」という姿勢は変わらない。国内に多くの製造業が留まっていた時代とは違い、日本経済が「円安⇒輸出・設備投資の拡大」のメリットを享受できる度合いは減っている。
海外投資の背中を強く押したのが2年前の3・11大震災だ。東北地方に集積していた半導体、ゴム、プラスチック、機械部品などのサプライチェーンが寸断し、自動車・電機メーカーの生産ラインが世界中で被害を受けた。
この苦い経験から、経済産業省は
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