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赤いファミリア、スーパードライ……アベノミクスでヒット商品は大量発生するか

永井隆 ジャーナリスト

 「これから先、景気は好転していくのかも知れない」。こんな将来への期待感を、生活者の多くが抱くと、我が国ではヒット商品が集中して大量に誕生する。この現象は過去2回、発生した。

 1回目は、第一次オイルショックを脱して、第二次オイルショックをかわしていった1980年前後から80年代前半にかけてだ。

 FFハッチバックを定着させるマツダの赤い「ファミリア」(発売は80年)、携帯型ステレオのソニー「ウォークマン」(発売は79年)、ゲームカルチャーの原点となった「インベーダーゲーム」(発売は78年だが79年からブームに)、パソコンのNEC「PC-98シリーズ」などが売れた。また、酒類ではチューハイブーム(80年~)が起こり、やがて「タカラcanチューハイ」(同84年)がヒットする。

 2回目は円高不況からバブル期に入っていく87年。コンパクト洗剤の花王「アタック」、ダニを駆除するクリーナーの三菱電機「ダニパンチ」、レンズ付きフィルムの富士フイルム「写ルンです」(発売は86年)、3ナンバー車の日産「シーマ」(同88年1月)、大型テレビ、初のペット入り紅茶飲料のキリン「午後の紅茶」(同86年)、アサヒ「スーパードライ」……。

 単純に売れただけではなく、市場そのものを広げたり新しいカテゴリーを創出するヒット商品が相次いだ。なかには、人々のライフスタイルを変えたヒット作もあった。

 ある百貨店幹部は言う。「アメリカで景気が好転すると、家具や食器類が売れる。再就職が決まるなどして、新たな気持ちで生活をリスタートさせようとする人々が、真新しい調度品やテーブルクロス、皿を購入する」。これに対し、日本ではヒット商品の集中が起こる。

 ウォークマンのような作り手側の意志を優先させたプロダクトアウトもあれば、スーパードライのような消費者調査を徹底させたマーケットインもある。ただし、共通するのは従来品とはちょっと違った”半歩先”を行った商品という点だろう。景気浮揚感を抱いた消費者の多くが、半歩先を選ぶ。いままでと同じでも、まったく違う一歩先でもない。それまで続いた我慢から解放された消費者たちは、少しだけ冒険をするのだ。

 赤い「ファミリア」は、マツダの開発者が消費者と接したのをきっかけに誕生した。第一次オイルショックで経営危機に陥ったマツダは、開発や生産に従事していた社員を全国の販売ディーラーに送る。この際、エンジニアたちは当時の若者たちにも営業を行う。直接のヒアリングから、サーフボードをルーフに載せられるなど、若者のニーズを取り込みヒット。ライバル各社はその後、赤いFFハッチバックを商品化して追随していった。

 「タカラcanチューハイ」は、宝酒造(現宝ホールディングス)の元ビール営業マンが

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