2013年05月18日
このところ、長期金利が上昇している。ゴールデンウィーク明けの5月7日に0.6%であった10年物国債の市場流通利回りは、5月15日には0.9%となった。約一週間で、0.3%の上昇である。利回りが上昇したということは、国債の市場価格が下落したということだ。10年物国債の場合、利回りの0.3%の上昇は市場価格の3%の下落に相当する。
■日銀が長期金利のコントロールに失敗?
この0.3%の利回上昇について、5月15日付けのロイターが、まるで市場がパニックに陥ったかのような報道をしている。
「長期金利の上昇が止まらない。麻生財務相ら経済閣僚から、金利上昇を容認する発言が飛び出し、地方銀行が保有する国債を売り急いだ為だ。(中略)金利上昇が止まらなければ、売りに歯止めが利かなくなる恐れもある。」
「『黒田日銀は金利を下げるという量的質的金融緩和に踏み切ったが、全くコントロールできてないじゃないか』大手行のリスク管理を担当する行員からは、こんな声も漏れる。(中略)金利上昇を容認する一部閣僚の発言に対し、『インフレ期待が高まれば金利が上昇するのは当然というが、それは我々に国債を売れということなのか』と、前出の大手銀行関係者は戸惑いを隠せない。」
(「閣僚の金利上昇容認発言で国債売却急いだ地銀、大手行は無傷でいられるか」ロイター、5月15日)
http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPTK067655920130514
この記事からは、長期金利の上昇が起きたのは、日銀がコントロールに失敗している為であり、ちゃんとコントロールするのがあたかも当然であるかのニュアンスが読み取れる。
だが、「日銀が長期金利をコントロールできる」という考えが、そもそも誤りである。長期金利は、人々のインフレ予想によって大きく変化する。
■予想インフレ率が大きく上昇している
長期金利を決める要因は、理論的には非常に簡単な数式で表すことが出来る。それは、アメリカの戦間期の経済学者、アーヴィング・フィッシャーの名前を採ってフィッシャーの恒等式と呼ばれる、
名目金利=実質金利+予想(期待)インフレ率
という数式である。
かりに、あなたが国債への投資家であったとしよう。あなたが、インフレもデフレもない状態のときに年率3%で国にお金を貸してもいいと考えているとすると、この3%が実質金利であると同時に名目金利である。しかし、貴方がお金を貸している間に年率2%のインフレが起こると思いはじめると、インフレによるお金の減価を補てんするべく、貴方は5%の金利を国に要求するだろう。このとき、名目金利は5%であるが、実質金利は3%である。(何故なら、1年後に5%の金利をもらっても、このうち2%分はインフレで目減りしている)ロイターの記事にある閣僚の発言、「インフレ期待が高まれば、金利が上昇するのは当然」は、原則的に正しい。
それでは、人々の予想インフレ率を測定することは出来るのか? やや技術的だが、同じ残存期間の固定利付国債とインフレ連動金利国債の価格の裁定条件から計算することが出来る。例えば、
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