2013年06月11日
そもそも株式市場の注目がここまで「成長戦略」に集まったことがおかしいとはいえる。その背景としては、外国人投資家が、今回の発表で「法人税減税」、「労働市場改革」が入ると思い込んだらしい。これだけの高支持率がある首相は何か大胆な改革を打ち出すに違いない、という観測もあったようだ。
これは、率直に言ってアベノミクスの性質を見誤った意見だ。アベノミクスは政治的妥協の産物であり、成長戦略は経済産業省が取りまとめている政策という色彩が強い。
ここまでのところ、安倍首相は財務省とは闘わず、経済産業省には協力を求め、そして旧日銀には強い姿勢で臨み、変えるという戦略を採用してきた。この戦略をどこまで継続するかは不明だが、この段階でこの基本戦略に変化が起きるとは想像しにくい。
これには、ここまで「成長戦略こそが大事」という論調を作り上げてきた日本のメディアにも責任はある。そもそも、経済成長は必要だし、成長を促進させる政策も必要だが、成長戦略には問題がある。
成長戦略の何が問題か。金融政策や財政政策には、こういう政策手段を用いるとこのような結果が得られるという関係が想定できる。もちろん、現実にはどこまで効果があるかは不確実であるものの、政府や日銀の操作変数が何かについては理解が確かである。しかし経済成長には、何が操作変数になっているのか、よくわからないところがあるのだ。
それでも経済学の歴史のなかで多少は役に立つと思われる政策はある。
私が『解剖アベノミクス』(日本経済新聞出版社、2013年)でまとめたことでいえば、短くはない経済学の歴史においても成長政策が何かについては、おおよそのことしかわからない。持続的にイノベーションが起きること、人々の知識・技能水準が向上することなどで、生産性が向上しないと経済成長は長続きしないことまではわかる。
しかし、そのあとになるとあまり確実なことはいえなくなる。所有権の保全といった基本的制度を前提としたうえで、成長促進政策としては、せいぜい競争、規制緩和、民営化、高等教育の充実、貿易自由化といったあたりになる。その意味では、外国人投資家が、法人税減税、労働市場改革というあたりに注目したこと自体は、間違っていなかったといえよう。
ただし、規制緩和も民営化もそれぞれに成功例、失敗例がある。規制緩和に賛成の立場にある星兵雄米スタンフォード大学教授とアニル・K・カシャップ米シカゴ大学教授も、1995年から2005年までの日本をみてみると、
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