団藤保晴(ネット・ジャーナリスト)
2013年06月26日
安倍政権が掲げる成長戦略の柱「科学技術創造立国の復活」で担当大臣が「革新するか死か」と叫んでいる。研究の現場を知らぬ見当違いに見えてならない。アベノミクスを応援する日経新聞が6月19日付社説《「技術立国」復活へ研究費配分を見直せ》を打ち出しているが、これまた上っ面の競争を煽る視点しか持たない。科学技術イノベーションを起こしたいのなら、広く底辺に水をまいてタネを育てるのが第一。その中から光る発想を目利きが拾い上げてプロジェクトにし、世界と本格的に戦わせる仕組みしかない。当たり前の「育成・選抜」が学閥体制ゆえに欧米よりも劣っていると『インターネットで読み解く!』第145回「大学改革は最悪のスタートに」(2004/05/13)で指摘した。
日経新聞は3月に《科学技術立国の実像(1)検証なき研究予算増》でドイツを高く評価した。《先進国の中で存在感を高めているのがドイツだ。政府が大学に投じる予算は日本の7割ほどだが、注目度の高い論文シェアは09年で11.0%と、95年より3ポイントほど上昇。産学連携でも「お手本」と話す研究者は多く、イノベーションを生む素地を作っている。なぜ効果を上げているのか。「海外研究者を積極的に呼び込み、研究の活力につなげている」。総合科技会議の議員を務めた先端医療振興財団の井村裕夫理事長はこう分析する》
そんな皮相な日独差だろうか。外人研究者をスカウトすれば済むのか。ドイツでは同じ大学での教授の昇任は法律で禁止されている。米国ハーバード大は日本と似ていて同じ大学出身者が教授になるケースが多めだが、一度は外部の研究機関を経ている。「旧七帝大」を中心にした学閥が堅固に維持され、持ち上がりで教授になる日本は、目利きの部分さえも学閥依存になっている。本当の「目利き」なのか疑わしいこと限りない。
2004年の国立大学法人移行で本質的な改革を避けた政府は、逆に研究費を絞って競争資金化する小手先の改革で研究者の尻を叩き続けた。広く底辺に水をまいて可能性の芽を発掘する手間のかかる作業よりも、すぐに結果を出す研究に目を向けるよう官僚は仕向けた。次に示す各国の論文数推移グラフで、日本だけが右肩上がりではない特異な状況に陥った大きな要因である。
安倍政権が成長戦略にかかげた「日本版NIH」構想に、多数の学会が危機感を表明している。この構想はNIH(アメリカ国立衛生研究所)に似せた司令塔を作り、医療・医学方面の研究開発の総合戦略を立て、関連予算を一元化する。現在、競争的な研究資金があちこちで分立しているのを束ねてしまうのだ。
学会の危機感を「今まで、研究費は基礎研究にもフェアに配分されていたのか?」(5号館のつぶやき)で北大の研究者がこう説いている。《現在あちこちに分散している研究費配分組織を、NIHという医療研究を究極目的とする研究資金配分機関に集中してしまったならば、いわゆる医療研究から遠くにある「基礎研究」への研究費が配分されなくなるという恐怖感がヒシヒシと感じられる》《もうすでに現実問題としては、たとえ「基礎研究」といえども応用に繋がる可能性がなければ研究費がもらえないのではないかという雰囲気が横溢しているのもまた事実ではないでしょうか。現実は、すでに日本版NIHの目指す方向に動き出していたのではないでしょうか》
日経社説が《最優先すべきは、
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