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収束見えぬ原発事故と日本経済のこれから

齋藤進 三極経済研究所代表取締役

 東京電力福島第1原発事故に起因する日本のエネルギー供給・消費、原発再稼働、放射能汚染問題などを私たちはいま、どう考えればいいのであろうか。そのポイントを整理しておきたい。

 まず、日本には遊休火力発電設備が膨大にあるので、原発を全面的に稼働停止にしても、電力供給には何ら問題はない、ということだ。

 筆者は事故の直後から、日本中の原発が全面的に稼働停止しても、日本の電力供給は十分に余裕があるとの趣旨を説明し、朝日新聞、その他の媒体でも、分かりやすく詳論した経緯がある。拙論の趣旨は新奇なものでもなく、京都大学の小出裕章氏などの『反原発派』も指摘して来たことである。しかし、中立的なエコノミストで、筆者のような論を述べるケースは皆無だったのである。

 その骨子は、既存の火力発電設備を、液化天然ガスによる ガス・タービン火力発電設備に転換することは、わずかな金額の設備投資で可能であること。また、熱効率の大幅な効率向上、天然ガス価格の低下見込みで、電力料金の大幅引き下げさえ可能であるというものであった。しかも、液化天然ガスは、液化の段階で硫黄分などの公害原因物質を除去するので、石炭、石油などよりも、環境に優しく、公害対策費が少ない利点まである。

 上記の論は、日本政府自身のデータを概観すれば、中高生でさえも分かる程度の事であった。しかし、その僅かな労さえ厭わない『エネルギー問題専門家』は、日本には、いなかったのが実状であった。

 現実に、最近2年余りの日本経済は、節電と、火力発電用の液化天然ガスの消費量の増大で、原発の稼働停止を乗り切れる事を実証したと言えよう。

 BP社の世界エネルギー統計年鑑・2013年版をもとに、福島第1原発事故前の2010年と、大飯の2基を除き、日本の原発がほぼ全面稼働停止していた昨年・2012年の第1次エネルギー消費量と、その内訳を石油換算で比較してみよう。

 原発稼働停止による62.1百万トンのマイナスは、28.5百万トンに相当する第1次エネルギー消費量の節約(省エネ・節電)で、マイナス分の45.89%を補い、それでも足りない分は、20.0百万トン相当の天然ガス、14.1百万トン相当の石油、1.0百万トン相当の再生可能エネルギーの増量でまかなった勘定である。

 ちなみに、原発によるエネルギー供給は、1997年前後で頭打ちになり、以後の原発事故の露呈で、2011年の福島第1原発事故前から漸減傾向にあったこと、天然ガス、石炭の供給の増大で、石油の供給・消費は、1996年前後から、かなり急速な減少傾向を示していたことに留意されたい。

 しかし、問題は、もっと深い所にある。福島第1原発事故で引き起こされた放射能汚染と、福島第1原発からの多量の新規な放射能汚染の拡散が、現在でも継続していることである。

 ドイツのマックス・プランク化学研究所などの研究者が、最近公表の論文で示している福島第1原発からの放射能汚染拡散を示す図によると、日本の東北・関東のほぼ全域、中部地方の大部分は、放射線管理エリア相当となる。その地域で産出される農林水産物は、食品・食糧ではなく、『放射性廃棄物』と国際的には見做されるのが、日本の悲しい現実である。

 原発事故による放射能汚染の影響が、人口動態などに見える形で全容を現すには、 ・・・ログインして読む
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筆者

齋藤進

齋藤進(さいとう・すすむ) 三極経済研究所代表取締役

(株)三極経済研究所・代表取締役。1950年静岡県生まれ。73年京都大学経済学部卒、73年より、国際関係研究所客員研究員(台北)、76年ミシガン大学大学院経済学博士課程修了。フォード財団特別研究員、ウォールストリートで、金融機関、機関投資家、国際機関向けの独立経済コンサルタント業、クレディ・スイス銀行(東京)経済調査部長兼チーフ・エコノミストなどを経て、1990年より現職。「平成不況」の名づけ親として、多くの経済政策論文・論説を発表。著書に『平成不況脱出』(ダイヤモンド社)、『平成金配り徳政令』(講談社)など。世界の100人のTop Political Columnistにも選ばれている。 【2016年8月WEBRONZA退任】

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