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ベゾスの才覚に賭けるワシントン・ポスト(下)

石川幸憲 在米ジャーナリスト

 祖父の時代からの家業であった新聞を手放したドン・グラハムにとって今後のチャレンジは、赤字が続くカプランの再建であろう。

 ワシントン・ポストという米国社会に深く根ざした文化の担い手(英語では「institution」と呼ぶ)を死守する社会的義務から解放され、普通の経営者として手腕が改めて試されることになる。彼からすれば、グラハム家に生まれて以来背負ってきた肩の荷が初めて下りたわけだ。今後は母キャサリン・グラハムに比べられることもなく、市井の私人として肩の力を抜いて生きるのだろう。

 そのバトンを渡されたのがジャーナリズムの世界とは無縁だったベゾスである。ベゾスはワシントン・ポスト紙社員に宛てた声明文の中で社主になる決意をこう表現した。

 「ワシントン・ポストの価値体系が変わる必要はない。同紙の義務は読者に対するもので、オーナーの私利に従うものではない。今後とも真理を執拗に追求し、ミスを犯さないように努力したい。それでもミスが発生すれば、迅速かつ徹底的に訂正する」。

 ドン・グラハムは、上場企業が新聞事業に取り組むというビジネスモデルに疑問を呈した。四半期での結果が求められ、株主への配当などにも気配りが必要な上場企業は、新聞が必要とする長期投資に不向きだという主張である。ベゾスは新生ワシントン・ポスト紙を非上場会社にする予定だ。

 ベゾスは思い切ったイノベーションを頭の中で描いているのかもしれない。インターネットは報道事業に下剋上をもたらしたが、

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