2013年09月10日
2020年五輪招致でイスタンブールは負けた。5月末にはイスラム色を強めるエルドアン首相への抗議デモが頻発し、6月は新興国に共通の通貨安と株安に見舞われ、8月は隣国のシリア危機と悪条件が重なった。筆者が8月末にイスタンブールを訪れたとき、多くの国民はすでに敗退を予想していた。
トルコはEU(欧州連合)への加盟でもとん挫した。目覚ましい経済成長を成し遂げてきたにもかかわらず、いまだにEU加盟を認めてもらえない。6月には3年ぶりに加盟交渉が開かれる予定だったが、エルドアン首相の強権的なデモ鎮圧を問題視するドイツやオランダ、オーストリアが反対して交渉はまた延期された。
五輪敗退もこれと二重写しに見える。五輪開催地を決めるIOC委員103人のうち44人は欧州出身者だ。イスタンブールで会った企業人は「欧州は基本的にイスラムが嫌い。ところが現政権はイスラム強化が基本方針。欧州が本心でトルコを支援することはありえません」と冷静に分析していた。
確かにパリ、ロンドンなど欧州の大都市近郊にはイスラム系移民が集団で居住し、ささいなことで暴動が起きる。歴史的にも十字軍遠征(11世紀~)、ビザンチン帝国滅亡(15世紀)、ウィーン包囲戦(16世紀)、キプロス領有紛争(20世紀)と、欧州キリスト教世界とイスラム(特にトルコ)はずっと敵対していた。欧州のイスラム嫌いは根が深い。
現在のエルドアン首相は、宗教者養成学校の出身で謹厳なイスラム信奉者だ。2002年の就任当初は経済政策に力を入れたが、11年の総選挙で5割を超す得票率を得てから「本性を現してきた」とされる。
公式の場で禁止されていた女性のスカーフ着用を認め、アルコールは夜間販売禁止、小中学校で宗教教育を強化、政教分離の立場をとる軍部の幹部逮捕など、「建国の父」ケマル・アタチェルク(注)が築いた「世俗主義(ソフトイスラム)」の排除を進めている。
しかし、反発する都市住民やビジネス界では不満が溜まり、感情対立は先鋭化している。トルコにとって100年続いてきた「世俗主義」を変えることは国家の根本を揺るがす大問題であり、「五輪どころではない」というのが国民の思いのようだ。五輪に不利になると知りながら抗議行動に走った心情は、筆者にも納得できる。
抗議デモの原点になったタクシム広場を訪ねると、
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