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[15]探訪記者・坂上遼(小俣一平)との対話(中)

大鹿靖明 朝日新聞経済部記者

 ≪外から見ていると、NHKは日本のジャーナリズムの世界で最も官僚的な体質が色濃いように私は思う(これに対して小俣氏は「朝日のほうがNHKよりも官僚的だ」と反論している)。私がアエラの記者時代に取材に行った際には、その広報担当幹部の人を見下したあまりにも横柄な態度に驚いたものだ。一般の企業広報とはまったく異なり、不祥事もみ消しが広報担当者の主な任務だからだろうかとさえ思った。そういう組織の中にあって記者とサラリーマンの矛盾に悩むことはなかったのだろうか≫

 ――記者としてやっていくうえで、組織の論理とぶつかったり、記事が改竄されたり、ねじ曲げられたりされたことはありませんか。組織ジャーナリストとしての悩みはありませんでしたか?

ジャーナリズムについて語る坂上遼(小俣一平)氏拡大ジャーナリズムについて語る坂上遼(小俣一平)氏

 小俣 無いといえば、ウソになりますよね。私は「組織ジャーナリズム」と「企業ジャーナリズム」とは区別しています。非政府組織で活躍している「国境なき記者団」のような「組織ジャーナリズム」がありますから、利益を追求する「企業ジャーナリズム」とは区別して考えているのです。「企業ジャーナリズム」であれば、先ほどのような指摘の事案は多少なりともあります。

 たとえば、私がとってきたネタではないのですが、自民党の金丸信副総裁の5億円事件で朝日新聞が新聞協会賞を取りましたよね。あれは朝日に出る数日前に司法クラブの検察担当記者がネタを取ってきてね。私が司法キャップで、特ダネとして打つ準備をしたんだけれど、NHKには不文律があって政治家側のコメントは政治部の記者が受け持つんです。今はどうなっているか知りませんが。

 ――それ、よくないですね。取材している記者が行くべきですね。

 小俣 そりゃ、よくないですよ。で、いきなり社会部が取材に行っては駄目で、政治部の担当記者を通せということになるんです。

 それで金丸さんのインタビューというかコメントが必要になったので社会部長に事情を話すと、当然「政治部にやってもらおう」ということになった。ところが、この政治部長は赴任してまだ月日があまり経っていなくて、「俺、まだ金丸さんのところにあいさつに行っていないんだよ、だから待ってくれ」と。

 すると、社会部長が「ちょっと延期してくれないかな」と気の毒そうに言ってくるわけですよ。こういうときには「ボツにする」とか絶対に言わないですよ。

 それで私は「あいさつするまで待っていたらどこかに出ますよ」と答えると、「いやぁ、ウチの司法クラブがつかんでいたことはみんな知っているから」と。「そういう問題じゃないでしょう」と言ったのですがね。そのときにはもうNHKだから無理だなと思っていました。

 ――どうして無理だと思ったのですか。

 小俣 それが企業ジャーナリズムとしてのNHKの取材姿勢だとわかっていましたからね。NHKは予算を国会で通してもらわないと運営できないから、どうしても政治家には弱い。特に与党にはね。

 そこでネタをとってきた記者を含めて取材したみんなに「申し訳ない」と謝りました。そうしたら案の定、朝日に出た。すると社会部長が「小俣ちゃん、朝からやろう」と(爆笑)。本当のことをいうと、朝日が書きそうというのはなんとなくわかっていました。担当記者から「どうも朝日がつかんだようだ」という報告を受けていましたから。あのスクープを出した、というか出せた朝日は凄い。それでNHKが朝のニュースから追いかけた。一番喜んだのは朝日ですよ(笑)。ときの最高権力者に対して自社一社で対峙するのは結構しんどいなか、結果的にNHKが援護射撃したわけですから(笑い)。

 ――小俣さんは社内の管理職みたいなのを目指したりはしなかったのですか? 偉くなろうとは思わなかったのです。

 小俣 思っていましたよ。金丸事件もそうでしたが、私は局内でイニシアチブを握らないと自分たちの思っている報道はできないということに気づいていたので、 ・・・ログインして読む
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筆者

大鹿靖明

大鹿靖明(おおしか・やすあき) 朝日新聞経済部記者

1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』を始め、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』、『堕ちた翼 ドキュメントJAL倒産』、『ジャーナリズムの現場から』がある。近著に『東芝の悲劇』。キング・クリムゾンに強い影響を受ける。

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