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老人ホームを営む「村上ファンド」

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

 かつて「モノ言う株主」として恐れられた村上ファンド(M&Aコンサルティング)を率いた村上世彰氏がいま、老人ホームのオーナーをしている。ヒルズ族バブルを演出した彼は、ライブドア事件のあおりを受けて東京地検特捜部に証券取引法違反(インサイダー取引)の疑いで逮捕され、後に有罪判決を受けた。いまはシンガポールで暮らし、「アジアで大きなビジネスをやっている」という彼だが、日本で狙うビジネスの一つが富裕層の多い高齢者市場である。

 村上氏は逮捕後2年たった2008年、旧村上ファンドのメンバーたちと投資会社レノを立ち上げた。逮捕時に200億円超あった村上氏の個人資産を原資にして、同年のリーマン・ショックで破綻した新興不動産会社を安い価格で相次いで買収した。

 かつての株式投資同様、安く買って高く売り抜ける手法で、会社更生手続き中だったジョイント・コーポレーションはゴールドマン・サックスに競り勝って50億円で買収に成功し、わずか1年半後には米国系投資ファンドのTPGに95億円で売却している。民事再生中のダイナシティからマンション事業部門を譲り受けると、シティインデックスと改称し、マンション開発事業に乗り出した。

 銀行借り入れによって老人ホーム開発をしてきた東証一部上場のゼクスもリーマン・ショック以降、資金繰りが厳しくなった。ゼクスの平山啓行社長は「法的整理を考えましたが、そうすると入居されたお年寄りたちが入居時に払われた一時金が一般債権となってしまう。

 入居者救済のため、法的整理を回避し、施設ごと買い取ってくれるところを探していました」と当時の苦しい状況を打ち明ける。そこに救済者として名乗りを上げたのが村上氏だった。実は、村上氏はこの当時、実父が同社の渋谷・南平台の高級老人ホームに入居しており、他人事ではなかったからである。

 平山氏によると、村上氏は「インサイダー事件によって世間からは非難されてきたが、自分には資金がある。それを生かして社会貢献をしたい」と申し出てきたという。ゼクスの所有物件は切り売りされることとなり、南平台、用賀などの高級老人ホームは米系投資ファンドのカーライルに譲渡され、白金、芦屋、舞子の3つの施設はレノやその傘下企業など村上氏のグループの手に渡った。村上氏側の払った買い取り価格は推定100億円超らしい。

 立地場所からもうかがえるように、3施設とも都心の外資系高級ホテルのようなラグジュアリー感のある建物だ。「老人ホーム」という言葉の響きからは想像もつかないような、介護・医療サービスつきの高齢者住宅といった趣である。平山氏は村上氏を3施設に案内して回り、村上氏は従業員や入居者の前で「事業を継承した村上です」とあいさつしてまわったという。

シンガポールで暮らす村上氏に国際電話で聞いた。

 ――どうして老人ホームを買収したのですか。

 「僕の親父がゼクスの南平台の施設に入っていてね。それがもし破綻して、食材の調達が止まったり電気や水道が止まったりしたら困るでしょう。自分の父親が入っていて、

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