メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

成長率を高める政策は存在しない

原田泰 原田泰(早稲田大学教授)

 アベノミクスが実行に移されてから1年がたつ。今までのところ、株価が上昇し、企業利益が回復し、生産と雇用が拡大している。この状況に対して、「アベノミクスは3本の矢からなっている。第1の矢の金融緩和政策の効果は短期的で間接的なものだから、直接的な効果を持つ第2の矢の財政政策と、長期的に日本の成長力を引き上げる第3の矢の成長戦略が大事だ」という人が多い。

金融政策は間接的だから望ましい

 しかし、金融政策が望ましいのは、その効果が間接的だからだ。財政政策とは、国が工事代金を支払うことだから、確かに支払われた人には直接的な効果がある。しかし、建設工事ばかりをしていたら、建設資材も建設賃金も上がってしまって、決められた予算で公共工事を請けてくれる会社がない状況になっている。工事ができなければ、景気刺激効果もない。だから、公共工事の建設単価を上げるべきだというのだが、そうすればすべての建設工事の単価が上がってしまう。

 日本は、今、どうしてもしなければならない工事がある。東日本の震災復興、福島第一原発の事故処理、東京オリンピックのための建設工事である。単価を上げれば、これら工事の妨げになる。公共投資は減額すべきである。

 一方、金融政策に特定の財やサービスの価格を上げる効果はない。なぜか分からないが、いつの間にか物価がわずかに上がっているという効果である。これは必要な工事の妨げにはならない。

 金融政策の効果は、失業率が5ないし4%のレベルから失業率が2ないし3%のレベルへと移行させ、経済を浮揚させる効果である。金融政策の目的は、失業率を引き下げることで、物価を上げることではない。デフレから脱却し、物価を2%に上昇させるのは、失業率を引き下げる手段である。また、失業率が2ないし3%のレベルになれば、

・・・ログインして読む
(残り:約833文字/本文:約1590文字)