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貧富の格差は自己責任か? 日米の80年代の税制改革を点検する

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 If you’re so smart, why aren’t you rich?(君がスマートな人なら、なぜ裕福ではないの?)――アメリカでよく耳にする諺である。いくつものWEBサイトがこの諺を冒頭に掲げて、株や金融商品への投資を誘いかけている。

 アメリカらしく「言い訳はきかない」と自己責任を教える諺でもある。ただ、背景にあるのは、人の値打ちはリッチかどうかで決まるというシンプルな価値観だ。

 昨年9月、カリフォルニア大学バークレー校のエマヌエル・サエス教授が、ある調査結果を発表して反響を呼んだ。

 リーマンショック後の2009~12年に、アメリカの上位1%の最富裕層の所得は31.4%伸びたのに、下位99%の所得はわずか0.4%の伸びにとどまっていた。最富裕層はリーマンショックで受けた損失(36%)をほぼ取り返し、国民全体の所得に占める割合は過去最高の19%まで上昇した。

 最富裕層は2012年の1年間だけで所得を20%増やしていた。サエス教授は「所得税やキャピタルゲイン課税の税率が13年から引き上げられる前に投資を回収した」と分析する。最富裕層は確かに「スマート」に行動して、更に「リッチ」になった。

 アメリカの格差拡大は、1981年のレーガン大統領による税制改革(グラフ)が出発点になっている。

拡大

 レーガン改革は「高い税率は働く意欲を削ぐ。努力に報いる報酬で経済を活性化させる」のが狙い。14~70%(15段階)だった所得税率を11~50%(14段階)に引き下げ、合わせてキャピタルゲイン課税の税率も28%から20%に引き下げた。

 更に86年には、所得税率が15%と28%の2段階に引き下げられ、富裕層は所得減税とキャピタルゲイン減税のダブルの恩恵を活用して更に豊かになった。運用する資産が大きければ利益も大きく、それをまた運用して…と、格差が開いていった。

 レーガン以前の1960~70年代は「黄金のアメリカ」と言われた。所得税の最高税率は70%(地方税含め80%超)もあり、高所得者から低所得者への富の再分配が進んで、戦前からのスーパー億万長者の人数は減り続けていた。

 一方で所得の中央値に属する世帯の所得は毎年2.7%ずつ順調に増え、この大量の中流クラスの人々がアメリカの健全な市民社会の基盤となっていたのである。

 それがレーガン改革を機に変貌した。プリンストン大学のポール・クルーグマン教授によると、

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筆者

木代泰之

木代泰之(きしろ・やすゆき) 経済・科学ジャーナリスト

経済・科学ジャーナリスト。東京大学工学部航空学科卒。NECで技術者として勤務の後、朝日新聞社に入社。主に経済記者として財務省、経済産業省、電力・石油、証券業界などを取材。現在は多様な業種の企業人や研究者らと組織する「イノベーション実践研究会」座長として、技術革新、経営刷新、政策展開について研究提言活動を続けている。著書に「自民党税制調査会」、「500兆円の奢り」(共著)など。

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