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アメリカから見たTPP交渉――日本の農産物の関税撤廃へ強硬姿勢とり続ける理由

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 数日前からワシントンに滞在し、通商代表部(USTR)の幹部に近い人やガット・ウルグァイ・ラウンド交渉をともに交渉した人たちなどと、意見交換をした。仕上げとして、20日の夜(日本時間で21日の朝)は、シンガポール閣僚会議へ出発する直前のフロマンUSTR代表のスピーチを聴いた。

 これでアメリカ政府の交渉スタンスが大体把握できた。

 まず、アメリカは、シンガポール閣僚会議でも日本の農産物の関税撤廃に対して、強硬な態度をとり続けるだろうということである。これには、いくつかの理由がある。

 第一に、トレード・プロモーション・オーソリティ法(日本では、大統領貿易促進権限法と訳されている)の頭文字をとったTPA法案との関係である。

 アメリカでは、憲法上、通商交渉の権限が議会に与えられている。議会は政府が交渉した結果でも、自由に修正できる。WTOが出来る前のガットの時代、各国が交渉して合意した結果の一部を、アメリカが認めなかったことがあった。

 このため、議会の通商権限を行政府、つまり大統領に渡し、アメリカ議会は政府が行った交渉の結果すべてに対して「イエス」か「ノー」だけ言い、一切修正しないという法律を作るようになった。これがTPAである。

 しかし、議会には労働組合などの支援を受ける民主党の議員たちに自由貿易反対派が多く、この前のTPA法は、わずか1票差で下院を通過している。

 これまでは、交渉を妥結する前には、アメリカ政府はTPAを獲得している。しかし、1月に出されたTPA法案については、提案者のボーカス院財政委員長が中国大使に転出したり、民主党のペロシ下院院内総務が否定的であることことなどから、今年中の議会通過は困難だというのが、ワシントンの通商関係者の大方の見方である。つまり、オバマ大統領がアジアを訪問する4月までに、アメリカ政府はTPAを獲得できないこととなる。

 これまでだと、TPAを持たないでは交渉を妥結できないことになるのだが、フロマン代表などUSTRは、逆に“良い内容のTPP交渉結果”を実現できれば、議会にTPA法案可決を強く迫れると考えている。

 つまり、これまでのような“TPA法案可決→TPPなどの交渉妥結”ではなく、“良いTPP交渉妥結→TPA法案可決”という流れだというのである。

 そのためには、アメリカが21世紀型協定だと言っているように、関税撤廃やルールなどでレベルの高い協定を実現する必要があるし、日本の農産物の関税を撤廃し、 ・・・ログインして読む
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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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