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 前回、アベノミクスの賃上げを「賃上げ劇場」と呼んだら、読者からこんな声が寄せられた。

 「賃上げがなければ大変なことになるのはエラい人たちも承知のはず。『劇場』呼ばわりは言い過ぎでは」。確かに、政府も懸命だろう。特定秘密保護法や安倍晋三首相の靖国参拝による外交危機の中、経済まで失速すれば大変なことになる。ただ、賃上げをぶち上げる一方で低賃金の非正規をさらに増やす政策は、穴のあいたバケツで水をくむようなものだ。そんな視点を欠いた賃上げ推進は、やはり「劇場」ではないのか。

 一方で、こんな反応もあった。

 「賃上げ劇場!素晴らしいネーミングです!雇用という大きな山の裏側を、何台ものブルドーザーで切り崩しながら、正面ではシャベルで土をもっている(いろいろPRしながら)ようなイメージです。正面でのほんのわずかな『賃上げ』とかで国民の関心を引き付け、同時に裏の方では安定雇用という名の山を切り崩しているような」

 二つの異なる見方は、政府が今国会への提出を目指す労働者派遣法改正案をブルドーザーのひとつと見るかどうかの違いかもしれない。

「均等待遇」の歯止めなし

 2月17日の衆院予算委員会で、安倍首相は、山井和則議員(民主)の質問に答え、「派遣を増やすべきだとはまったく考えていない」と答えた。だが、1月末に出された労働者派遣法改正案の骨子となる報告書に対して、「労働者生涯派遣化法案」「正社員不要化法案」といったネーミングが広がり始めている。今回の改正が、日本の雇用劣化の促進剤となりかねないからだ。

 働き手のほとんどは、自分が働く会社と雇用契約を結び、待遇改善などを会社とじかに交渉する権利を保障される「直接雇用」だ。ところが派遣労働者は、派遣会社(派遣元)と雇用契約を結び、別の会社(派遣先)に送り込まれてその指揮命令を受ける「間接雇用」だ。形式的な雇用主と実際の使用主が異なるため、基本的な労使交渉権を行使しにくい。派遣会社をくぐらせるだけで雇用責任を回避できる「偽装雇用」が起きやすいのだ。

 歯止めとして、欧州ばかりか中国・韓国でも、派遣については正社員との「均等待遇」を規定している。たとえばフランスでは、派遣労働者は前任者の正社員と同じ賃金や福利厚生などが義務付けられている。この仕組みでは正社員と同じ賃金の上に、派遣会社の利益と経費が乗せられ、 ・・・ログインして読む
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筆者

竹信三恵子

竹信三恵子(たけのぶ・みえこ) ジャーナリスト、和光大学名誉教授

和光大学名誉教授。東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から和光大学現代人間学部教授・ジャーナリスト。2019年4月から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。共著として「『全身○活時代~就活・婚活・保活の社会論』など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。

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