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[5]『週刊朝日』を手引きしたのは「違法、倫理上許されない」

大鹿靖明 ジャーナリスト・ノンフィクション作家(朝日新聞編集委員)

 東京電力の幹部たちを最も怒らせたのが、「週刊朝日」の今西憲之氏&同誌取材班による福島第一原発潜入ルポだった。ほとんどの大手メディアが、東電や政府の「大本営発表」に飼いならされる中、ゲリラジャーナリズムの週刊誌だからこそ出来た大スクープである。

 週刊朝日は2011年7月22日号(同10日発売)で、福島第一原発の“最高幹部”が赤裸々に事故を語る「福島第一原発の最高幹部がついに語ったフクシマの真実:前編」を掲載。“最高幹部”が、イチエフの被害は実は津波よりも地震の影響が大きいと打ち明け、「いま玄海原発の再稼働問題が取りざたされていますが、そんなバカなことはやめたほうがいい」との発言を掲載した。再稼働の動きを進めていた経済産業省をビックリさせる内容だった。以後、週刊朝日は“最高幹部”の告白を連打する。

 その週刊朝日が9月16日号(同6日発売)で始めた福島第一原発潜入ルポは、戦場のような同原発の惨状を豊富な写真によって示し、現地の状況をつぶさに報告した。“最高幹部”という内部の当事者の証言だけでなく、メディアとして初めて現場に潜入することにも成功したのだ。東電はもとより民主党政権も慌てさせる内容だった。

福島第一原発の免震重要棟で、報道陣の質問に答える吉田昌郎所長(中央)。右隣は細野豪志原発相(いずれも当時)=2011年11月12日、福島県大熊町 福島第一原発の免震重要棟で、報道陣の質問に答える吉田昌郎所長(中央)。右隣は細野豪志原発相(いずれも当時)=2011年11月12日、福島県大熊町

 週刊朝日を主な発表の場にしているジャーナリストの今西憲之氏はこの当時、独自のルートから福島第一原発の潜入に成功。潜入した回数はなんと数十回に及び、同原発の多くの幹部から話を聞き出し、公表されていない原発事故の惨状を示す撮影にも成功している。その詳細は、後に『福島原発の真実 最高幹部の独白』(朝日新聞出版)としてまとめられている。

 週刊朝日が発売された9月6日(火)午後6時からの全体会議で、「週刊朝日の件で物議をかもしているが」と口火を切ったのは、当の第一原発の吉田昌郎所長である。

 吉田所長 : なぜこれ(週刊朝日の記事)がニュースバリューになるかというと、現場を公開しないからだと見ている。公開していればまったくニュースバリューにはならないので、広報戦略をもってお願いしたい。こういったことが出るたびに、誰が言ったのかとかいちいち問われると不毛の議論となるので、配慮をお願いしたい、というのが所長としての意見である。

 吉田所長は、東電本店による管理された情報開示ではなく、むしろ情報を積極的に公開したほうがいいということを言っている。なるべく事態を小さく見せたがり、真相を公にしたがらない本店の体質を難詰している。

 そのうえで彼はこう言った。

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