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 インターネット託児で預けられた幼児の痛ましい死亡事件が話題になっている。ベビーシッターに頼る女性が必ずしも珍しくなくなっているいま業界への規制を求める声も高まっている。だが、現場で働くベビーシッターの証言からは、その働き方の特異性と、問題解決の難しさが浮かんでくる。

予定をつくれない働き方

 ベビーシッター業界では先駆的ともいえる労組結成メンバーの一人A子さんに取材したのは、昨年5月のことだ。労働条件の改善を求め、派遣ユニオンの支援で労組を立ち上げたというA子さんは、開口一番、「ベビーシッターは予定をつくれない働き方」と言った。

 A子さんたちは、依頼者の要請で家庭に出かけ、親の帰宅まで子供のケアを引き受ける。問題は、急な依頼が少なくないことだ。朝9時40分の連絡で、同じ日の午後1時に現場に出向かねばならないこともあった。工場などのシフト労働は労働時間で区切られる交代制だが、ベビーシッターは、四六時中依頼を待ち続ける「フリーシフト」だ。だから、自分の予定を入れられない生活、となる。

 労働基準法15条では、労働契約の締結に際し、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならないとされている。「フリーシフト」制は、これに違反している。

 働き手のほとんどは時給制で、A子さんの会社の基本給は時給1220円。親が帰って来ない限り職場からは抜けられず、8時間を超えても休憩は取れないまま一人で13時間働き続けたこともある。

 ユニオンを結成したおかげで、A子さんたちは仕事が来なくても月90時間分、つまり約11万円の保証給(最低月給)を勝ち取ることができた。だが、多くの会社では、働いた分しか賃金は払われない。仕事が減ると賃金が下がり、生活は苦しくなる。雇い主の心証を悪くすると、嫌がらせに大幅にシフトを減らされ、収入を下げられることさえある。だから、労働条件を改善するための労組結成も楽ではない。

 労働法の保護を受けようにも、労働法のどの分野にあてはまるのかわからない。業務委託なら、仕事を請け負った会社の指揮命令下で働き、派遣労働なら派遣先の指揮命令を受けて働く。だが、シッターは、指揮すべき大人が外出しているから、すべてを自分で判断する。となると自営業ともいえるが、

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筆者

竹信三恵子

竹信三恵子(たけのぶ・みえこ) ジャーナリスト、和光大学名誉教授

和光大学名誉教授。東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から和光大学現代人間学部教授・ジャーナリスト。2019年4月から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。共著として「『全身○活時代~就活・婚活・保活の社会論』など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。

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