2014年05月09日
米ニューヨーク・タイムズが4月29日付で、「米司法当局が巨大金融機関を脱税幇助とマネーロンダリングの疑いで訴追する可能性が高まった」と報じている。
具体的には、スイスの大銀行、クレディスイスに対して、アメリカの居住者の脱税を手助けしたこと、つまり脱税幇助の罪で、また、フランスの大銀行、BNPパリバに対して、アメリカが金融取引を禁止しているスーダン政府に金融サービスを提供したこと、つまりマネーロンダリングの罪で、この2行を訴追する可能性がある、という。
これだけのことなら、よくある金融スキャンダルの記事に過ぎないように見えるが、よく読むと、アメリカではこれまで、金融機関を刑事犯罪で訴追するに当り、司法当局と金融機関の規制当局の間で信じられないようなやり取りがあったことがわかる。
この記事によれば、アメリカの司法当局は、実はこの2件以外にも、近年、巨大金融機関の訴追を検討したのだが、経済への悪影響を恐れて断念した、という。ひとつは2年前、イギリスの香港上海銀行(HSBC)に対するBNPパリバと同様のマネーロンダリングの事案であり、もうひとつは昨年、米銀JPモルガンに対するバーナード・マドフの金融詐欺への関与に関する事案である。
だが、司法当局はHSBC とJPモルガンの刑事訴追を見送り、その代りに巨額の罰金を科すことを選んだ。アメリカの司法制度では、これは罰金を支払うことで刑事訴追を免れる、いわゆる司法取引である。なぜこうなったかといえば、司法当局が、刑事訴追を行って有罪を勝ち取った場合、金融機関の規制当局がこれらの銀行を閉鎖に追い込まざるを得なくなる、との判断が働いたからだ、という。
昨年9月、上述のJPモルガンの事案に関して、司法当局と金融機関規制当局との会議の席上、アメリカの金融機関規制当局のトップの一人である通貨監督官(Comptroller of Currency)、ジェームズ・カリー氏は「もしも、刑事法によりJPモルガンが有罪となった場合、私は法律の規定に従い、JPモルガンから銀行ライセンスを取り上げることを検討せざるを得ない」と述べた、とこの記事は伝える。また、これに関連して、連邦司法長官エリック・ホールダー氏が、議会証言で「大銀行は、今やあまりにも大き過ぎて、経済への影響を考えると簡単に訴追に踏み切ることはできない」と述べた、という。
つまり、巨大金融機関は大き過ぎて潰せない(Too big to fail)、だから刑事訴追も出来ない(Too big to jail)という訳だ。現実問題として、JPモルガンのような大銀行から銀行ライセンスを取り上げるなどということが出来る訳がない。銀行ライセンスがなければ預金取引・資金決済ができなくなるのだから、大パニックが起きることは明らかだ。しかし、だからと言って、
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