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[29]所得格差の拡大は自由化の帰結、日本は失敗から学べるか

齋藤進 三極経済研究所代表取締役

 米国で、「Occupy Wall Street」、「トップ1%」などのスローガンで、所得分配の不平等や、それから生じる様々な社会経済問題が大きく取り上げられたのは2011年秋のことだった。その直後には、米国議会も、最近の30年余りで、米国社会の所得分布が、所得上位層に大きく集中して来た実態を、税務データを使って詳しく分析した報告書を公表した。

 日本でも、日本社会の全人口での『相対的貧困率』が約16%に上るとの事態が、厚生労働省の報告書(平成21年、平成22年の国民生活基礎調査の概況)で指摘された。

 すなわち、日本の総人口・1億2730万人余りの内で、2037万人近くが、生活保護を受給すべき経済階層に属するということである。しかし、実際の生活保護受給者数は、厚生労働省自体の今年3月の発表では、昨年(2013年)12月時点で、216万7220人に過ぎない。

 生活保護受給者の97%余りは、日本国籍保持者とのことである。生活保護受給者の一部には、不正受給者もいよう。

 しかし、本来は、生活保護で経済的に保護されるべき1820万人余りは、日本国憲法第25条が規定する「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」との権利から除外されていると言える。

 この「生存権」(健康で文化的な生活を営む権利)という日本国憲法の規定条項は、森戸辰男氏(後に文部大臣、日本育英会会長など)の発議で、昭和21年の日本国憲法案の議会審議の過程で加えられたものとして有名である。

 最近では、自由化万能の賛美派が主流であった欧米の経済学界でも、所得分配の実態をデータに基づいて実証的に研究しようとの傾向が、一部の経済学者の間で盛んになって来た。良くも悪くも、分析、研究、政策的な議論などの下地となる明確に定義されたデータ収集が肝心であるからである。

 その中でも、『The World Top Income Database』は、世界中の研究者、研究機関の所得分配などの推移をデータ・ベース化しようとの試みで、このコラムの読者の皆さんも、広く活用されることをお薦めたい。
(http://topincomes.g-mond.parisschoolofeconomics.eu/#Home)

 人間社会の中での所得分配、その結果の所得分布の不平等度などは、天然自然現象ではない。税制などの社会制度の変遷と密接に関連しているのは当然、自明と言っても過言ではないであろう。

 しかし、第二次世界大戦後の米国などの経済学界の主流は、

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