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 5月16日、韓国の光州市で開かれた国際人権都市フォーラムのワークショップに報告者として招かれた。テーマは、「新しい国家暴力としての民営化」だ。

 民営化は、日本では「硬直した官のサービスから柔軟で効率的な企業によるサービスへ」というプラスのイメージで語られ続けてきた。だが、韓国の研究者らが指摘したのは、「私企業の公共財横領の国家による推進」という民営化の側面だった。そんな目で周囲を見直すと見えなかったものが見えて来る。そのひとつが、安倍政権が進める「失業なき労働移動」政策だ。

雇用調整助成金と就労支援金の逆転

 これまでの政府の労働政策の主流は、社会不安が起きないよう失業者を増やさないこと、つまりできる限りクビを切らせないことだった。そのため、不況期にクビを切らずに我慢した企業には「雇用調整助成金」が支給されてきた。

 これに対し、安倍政権下で産業競争力会議を中心に進められているのは、解雇規制を緩和し、働き手の転職を支援する政策、つまり、クビを切らせて別の産業へ移動させる政策だ。そのために重視され始めているのが「労働移動支援助成金」で、これは、社員の再就職を人材ビジネスに委託したときと再就職が実現した時、会社に支給される。

 産業競争力会議では、これまで2億円程度だったこの助成金と、1000億円程度だった雇用調整助成金の予算比率を逆転させる議論が進んでいる。すでに2014年度予算では、雇用調整助成金が前年度の1175億円から545億円に激減。労働移動助成金は、従来の2億円から301億円に増やされた。

 確かに、企業内での雇用維持から新しい産業への移動促進へという切り替えは、欧州でも主流化しつつある。グローバル化の中で、製造業が低賃金の国に出て行く「空洞化」が進行。これに代わる付加価値の高い産業に働き手を移動させることで、新たな「食べていける雇用」を育てようという発想が背景にある。「食べられる賃金」を稼ぎ出せなくなった産業に無理して人を抱え込ませていても、働き手の暮らしはよくならないというわけだ。

 問題は、安倍政権の「失業なき労働移動」の枠組みが、「食べられる雇用への移動」となっているかだ。

「食べられる雇用」なき移動

 解雇規制を大幅に緩和し、産業間移動を促した国として知られるデンマークの政策と比べると、その違いははっきりしてくる。

 まず、デンマークの労働移動の実施主体は、公的職業紹介機関と、8割の組織率を持つ強力な労組だ。労組は会社からの解雇者リストを点検し、パワハラ解雇ではないか、人選は公正かをチェックする。

 さらに、ハローワークが提供する人手不足の業種リストを対象者に見せて希望の転職先を聞き出し、

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筆者

竹信三恵子

竹信三恵子(たけのぶ・みえこ) ジャーナリスト、和光大学名誉教授

和光大学名誉教授。東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から和光大学現代人間学部教授・ジャーナリスト。2019年4月から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。共著として「『全身○活時代~就活・婚活・保活の社会論』など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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