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景気回復で加速する社会と大学教育とのミスマッチ

小原篤次 大学教員(国際経済、経済政策、金融)

 2015年大学新卒の採用活動が山場を迎え、3年生向けの求職サイトが一斉に開設されている。最近、西日本のある民間放送局の役員と話をする機会があった。2015年卒業予定者の選考は昨年より、数週間、前倒しで終了させたという。面接に加えて、中堅社員がランチをともにして選考方法を工夫したという。ここまでなら、景気回復下の採用活動としては想定されることで、さして驚きはなかった。

 驚いたのは、2014年の入社を巡る話に及んだ時だった。入社予定者の中に、単位不足で卒業が延期になった学生がでた。男子学生である。この男子学生の親が、卒業できないことで、この民間放送局に詫びを入れに来たというのだ。

 親としては、あわよくば、放送局に入社延期の寛大な対応を期待したのかもしれないが、競争率も高い放送局の選考を突破した学生だけに、ちょっとした衝撃だった。この民放では、2015年卒業予定者については最終面接で、男子8割、女子2割と、男子の数を増やして、丁寧に選考を実施することになったそうだ。

 景気回復で求人が回復し、内定は取りやすくなる。大学において、卒業の評価や審査が景況感で柔軟に変化するわけではない。内定後、大学生の卒業を巡る珍事、ドラマ、クレーム、そしてトラブルが必ず増えるだろう。

生産管理の用語が大学に持ち込まれる不思議

 前回、大学の財政事情について若干、考察した。今回は、さらに文部科学省の方針と大学の関係をミクロに説明を試みる。解説で、見慣れない専門用語が登場することをお許しいただきたい。「いっそ東大を私学に! 学長を強化しても変われない国立大学の現実」

 大学、とくに大学教員はもともと、短期的な景況感とは違う、属人的なスタンスで仕事をこなしてきた。社会から硬直的だと批判を受けた。これが最近では、個人の判断(成績評価が甘いとか、厳しいとか)ではなく、業績評価というフレームワークが課されているために、制度的に動かし難いものになりつつある。文部科学省、大学管理者が近年、教職員向けの方針で好んで使用するのが、PDCAサイクル、質保証、PBLなどである。

 例えば、芝浦工業大学のサイトには以下のような文章がある。

 本学の「PDCA化とIR体制による教育の質保証」が平成22年度「大学教育・学生支援推進事業 大学教育推進プログラム」に採択されました。全国の国公私立大学等から298件の申請があり、30件が採択されました。

 非製造業の経営陣、経営企画のスタッフも解読し難いだろう。いわば、大学でしか通用しない「マネジメント用語」である。

 PDCAは、もともと第二次世界大戦当時、米国の生産性向上に寄与したエドワーズ・デミング博士らが提唱したものだ。優れた品質管理の製造業をたたえるデミング賞として、

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