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マレーシア機事故は3年前の全日空急降下事故に酷似――その検証と推論

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 今年3月8日、マレーシア航空機が消息不明になった事故は、海上に破片一つ見つからず、さまざまな憶測や陰謀説が飛び交っている。

ほとんど知られていない全日空機急降下事故

 だが、2011年9月に起きた全日空140便(那覇発・羽田行き)の急降下事故がマレーシア機不明事件に酷似していることは、一部の航空専門家を除いてほとんど知られていない。機体はともにボーイングで、巡航高度で飛行中に突然左に急旋回している。全日空の事故を参考にしながら、マレーシア機に起きた事態について推測してみたい。

【全日空のケース】

飛行経路図:運輸安全委員会資料=黒い線が飛行経路。突然左旋回し、立て直した後に右旋回して羽田に向かった飛行経路図:運輸安全委員会資料=黒い線が飛行経路。突然左旋回し、立て直した後に右旋回して羽田に向かった
 11年9月6日午後10時48分、紀伊半島東の太平洋上を巡航高度で飛行していた全日空140便(B737-700型機)は、副操縦士(30歳代)のささいな誤操作から急に左旋回を始め、飛行方向は目的地の羽田とは真反対を向いた(飛行経路図)。機体はほとんど上下反転するほど左に傾きながらスパイラル状に急降下していた。

 副操縦士は誤操作に気づいて回復に努めたが、高度は4万1千フィートから3万5千フィートまで、一気に約6300フィート(1900メートル)降下し、速度は増してマッハ0.828と設計条件を超過。ロール角度(左右の傾き)は最大131・7度と背面飛行(CG図)になり、機首の下げ角度(ピッチ)は最大35度に達した。危うく大惨事になるところだった。

CG図:同=機体は誤操作から28秒後に左に131.7度傾いたCG図:同=機体は誤操作から28秒後に左に131.7度傾いた

 国土交通省の運輸安全委員会はこの事故を「重大インシデント」と位置付け、事故翌年の12年8月に「経過報告」をまとめた。そこで明らかにされたのは、全く予想もしないことから起きた誤操作だった。

 午後10時46分、着陸を控えた機長(60歳代)はトイレに行くため操縦室を出た。用を済ませて操縦室に戻るためドアのチャイムを鳴らした。米国で起きた9・11テロの後、操縦室のドアは外からは開けられず、室内の「ドアロックセレクター」でドアを開ける仕組みになっている。セレクターは副操縦士の左横にあり、ノブを押し込みながら左に回してドアを解錠する(写真1)。夜間飛行中で室内は暗かった。

写真1:同=夜間飛行中に副操縦士がドア外部モニター画面を見て、ドアロックセレクターを操作するイメージ写真1:同=夜間飛行中に副操縦士がドア外部モニター画面を見て、ドアロックセレクターを操作するイメージ

 副操縦士はちょうど管制官から経路変更の指示を受けてオートパイロット装置にデータ入力している最中で忙しく、ドアを解錠するために左手を斜め下に伸ばしてノブを左に回した・・・はずだったが、間違えてセレクターから約20センチの位置にある「ラダートリム」のノブを左に回してしまった(写真2)。

 ラダーとは垂直尾翼に付いている舵で、機体の方向を左右に動かす。副操縦士は誤操作に気付かぬまま、ドアを解錠しようと焦って更に「ラダートリム」のノブを左に回したので、機体は急速な左旋回に入った。27秒後に誤操作に気づいた副操縦士は操縦かんを右に回してバランスを取ろうとしたが、一度崩れたバランスはうまく戻らず、正常に回復したのは異常発生から4分後だった。

写真2:同=B737-700型機の「ドアロックセレクター」と「ラダートリム」の位置関係。巻き尺の目盛では約20cm離れている写真2:同=B737-700型機の「ドアロックセレクター」と「ラダートリム」の位置関係。巻き尺の目盛では約20cm離れている

【マレーシア機のケース】
 さて、マレーシア航空機(MH370便、B777-200型)である。事故当時、その飛行経路について多くの矛盾する情報が報道されたが、後で否定されたものもあり、今でも錯綜している。例えば豪州西部のインド洋での捜索は、各国艦船や航空機が南シナ海の捜索を打ち切って参加したにもかかわらず、全くの徒労に終わった。

 マレーシア機の謎については、航空安全コンサルタント((株)ヒューファクソリューションズ代表取締役)の佐久間秀武氏が的確な分析と推論を提示しているので、その論旨に沿って説明しよう。曖昧な情報を除き、確実と思われるデータを時系列で

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